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わが身にひきくらべて

インターネットで次のような記事を読みました。
「コロナよりも怖いのは人間だった。ドラッグストアの店員が語る恐怖の体験」
このドラッグストアの店員は、今回のコロナの影響でマスクが品薄となった頃から、「マスクの今度の入荷はいつだ!?」「いつもないじゃないか!」「病人がいていつも買えないのに、一個くらい取り置きしてよ!」と毎日何度も何度も言われるようになりました。店員に対してキレて暴言を吐く人も少なくなかったそうです。今まで笑顔だったお客様が、全員鬼のように見えてしまい、正直、ノイローゼ気味になってしまったとのこと。
「目に見えないものより、目に見える人間が怖いです。コロナよりも怖いのは人間だと思います。」との言葉には、マスクを探しながらついイラっとしてしまったことのある私自身、身に詰まされる思いがしました。

『イソップ物語』に「熊と旅人」という話があります。
むかしむかし、2人の男が旅をしていました。ひげの生えている男の方が、帽子をかぶっている男に、「俺たちは、友だち同士だよね」と言った時、突然、「ガォーーッ!!」と大きなクマが出てきました。
ひげの男は帽子の男の背中に足をかけると、ヒョイと近くの木に飛び移ってスルスルと高い枝に登りました。
帽子の男はどこへ逃げたらいいのか分からなくて、道にばったりと倒れました。死んだふりをすればクマに襲われない、という話を聞いたことがあったからです。
クマは、「クンクン、クンクン」と、帽子の男の臭いを嗅いでいましたが、そのうちどこかへ行ってしまいました。
それを見て、ひげの男が木から降りてきて尋ねました。
「ねえ君、いま、クマが君に何か言っていたようだけど、何て言ったんだい?」
帽子の男は、こう答えました。
「クマはこう言ったんだ。『危ないことに出会った時、自分だけさっさと逃げてしまうような友だちとは、もう一緒に旅をしない方がいいよ』って」

人間誰しも我が身が可愛いもの。しかし、友人の背中に足をかけてまで逃げ出すという行為はいかがなものでしょうか? 今回のコロナウィルスの件でも、一人ひとりが不安を抱え、自分の身を守ることに神経を使っています。しかし、だからと言って周りの人を差し置いてまで、自分を優先させて良いかと言えばそうではないでしょう。

すべての者は暴力におびえ、すべての者は死を恐れる。
わが身にひきくらべて、殺してはならない、殺させてはならない。

(ブッダ『ダンマパダ』より)

お釈迦さまは、わが身にひきくらべて(=自分の身に起こったとしたら?と考えて)、暴力や争いで人を傷つけることを止めよと説いています。
誰かにされて自分が「嫌だな」と思うことは、当たり前ですが、他の人も「嫌だ」と思うのです。それを、「知らない誰かだから、やっても良い」ということにはなりません。
今のような、誰にとっても大変な状況であればこそ、常に「わが身にひきくらべて」行いを慎みたいものです。

(2020年8月31日 名和清隆 / 埼玉・淨念寺)