虫嫌い

私の妻は虫が大の苦手です。家の中にアリやクモが出てくると、我が家は非常事態。多くの人間が苦手なあの黒くて素早く動く虫が出た時などは緊急事態宣言が発令されます。
そんな妻は虫を駆除することも苦手で、虫を見つけると嫌悪とともに慈悲の心が発動され、私はよく「生きたまま外にだしてあげて」と頼まれます。私もあまり虫が得意ではありませんが、妻のためとなれば、そこは二つ返事で引き受けます。そして、紙などでつまんでから、窓を開けポイっと外へと虫だけを放り投げます。時には殺虫スプレーを吹きかけることもありますが、お寺という場所で使うことに気が引けることもあります。

今年は夏本番を前に室内での虫の蔓延を防止するため、様々な駆除グッズを購入し、万全の備えをすることとなりました。ホームセンターに行って驚きましたが、虫を避けたり、駆除したりするための商品は実に多様です。虫の種類や、用途に合わせた商品の数々は、人間が害虫を嫌悪することの現れでしょう。人と生活圏が接しているだけで、一方的に目の敵にされる一寸の虫たちの五分の魂を想像すると、なんだか気の毒に思います。

生き物は自分に合った環境の中で生きていくものであり、環境が変化すると生きていくことが難しくなります。しかしながら、人間は自分が生活する環境を自分自身で変えることができます。自分にとってより好ましい環境を作り上げるため、日夜、努力をし続けます。虫対策の商品が多くあるのも、好ましくない虫がいなくなるように環境を整備するためでしょう。

虫が苦手な人はなるべく虫に出くわすことなく生活することで心の穏やかさが保てます。極論を言えば、あらゆる虫が駆除されたような世界がその人にとっての理想の世界でしょう。しかし、一匹も虫のいない環境は人間にとって好ましいものなのでしょうか。自分にとって暮らしやすく、好ましい世界を作るために、ほかの誰かが、あるいは何かを犠牲にすることがあってもよいのでしょうか。そんな反省をせぬままに、人にとって暮らしやすい世界を目指した結果、今、太平洋に浮かぶ島々が水没の危機にさらされることとなりました。

自分一人ではなく、みんなが暮らしやすくなるためには、どのように行動すべきか。難しい問題ですが、妻と虫が共存できる方法を考えながら、その問いへの答えを模索していきます。当分、家にいる時間が減ることはないようなので、なかなか話を聞けない虫と向きあって考えてみようと思います。

(2021年5月31日 石田一裕 / 神奈川・光明寺)