今月の言葉:2020年10月
実りをいただく幸せ
In the harvest time, we should reflect and be grateful for on all life forms that sustain us.

季節は秋となりましたが、この時期にいたっても、コロナ禍の収束の目途が立たず、世界中で不安な日々が続いております。
思えば「令和」という新元号となり、東京オリンピック開催を控え、高揚感に包まれた昨年末に、誰が今の状況を想像したことでしょう。
昨今はステイホームということもあり、私も自坊に居る機会が以前よりも多くなりました。ある時、住職(師僧)が大変気に入って聴いている、竹内まりやさんの『いのちの歌』が流れていました。
その曲の最後には、「生まれてきたこと/育ててもらえたこと/出会ったこと/笑ったこと/そのすべてにありがとう/この命にありがとう」という歌詞がありました。この曲を聴いたとき、今まで当たり前だと思えた日々の暮らしが、どれ程大切なものかと問われているような気がいたしました。
皆さまは、「当たり前」の反対語をご存じでしょうか。正解は「ありがとう(有り難い)」です。法然上人のご法語の一つ「一紙小消息」には、「〝受け難き〟人の世に生れ、〝遭い難き〟阿弥陀さまの本願に出会い、〝発し難き〟往生浄土の志をたて、〝離れ難き〟生死輪廻の里を抜け出し、〝生まれ難き〟極楽浄土へ往生を遂げることができる、これ以上の悦びはない」と説かれています。
これは、生を受けることが難しい人間としてこの世に生まれ、めぐり合うことが難しい阿弥陀さまの本願に出会い、お念仏をとなえれば浄土へ往生がかなうことは「有り難き」ことであるということが示されています。
私たちは日々お念仏をおとなえすることで、いずれ臨終を迎えた時にその功徳が〝実り〟、阿弥陀さまやご先祖さまが在す極楽浄土へ往生がかなう、その〝幸せ〟をいただくことができます。
コロナ禍の喧騒をよそに、また「実りの秋」はやってまいります。木々の葉は色づき、果実が成熟し、稲穂も黄金色にたなびき、収穫の時期を迎えています。私たちは、「めぐみ」をいただき、「いのち」をいただき、そして「幸せ」をいただいて生きています。
「有り難い」と感謝の気持ちを忘れず、お念仏をとなえ、日々を過ごしてまいりましょう。
(東京都文京区 天然寺 後藤史孝)