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今月の言葉:2021年08月

再会に心弾ませて

When you reunite with a loved one,it gives your heart a boost.

少々季節感が違う話になりますが、私の住む青森県弘前(ひろさき)市には弘前公園という桜の名所があります。桜の花が満開になるころは、足を運びたくなるほど見応えがあります。

私は「別れ」や「儚(はかな)さ」の象徴ともいわれるこの花を見ると、「この杯(さかずき)を受けてくれ どうぞなみなみ注がしておくれ 花に嵐の例えもあるぞ さよならだけが人生だ」という詩を思い出します。

これは文豪・井伏(いぶせ)鱒二(ますじ)が漢詩の『勧酒(かんしゅ)』を和訳したもので、特に後半は響きの良さも相まって名訳として有名です。この詩は「どんなにきれいに花が咲いても風で散ってしまうように、良いことは長く続かないもの。人生には必ず別れはあるものだ」と、親しくしていた人との別離を表したものとされています。

昨年から続くコロナ禍によって、往来に気を遣い、人と気軽に会えなくなる日々が来ることを誰が想像できたでしょうか。周りと隔絶されているような感覚になったのは、私だけではないと思います。

今春、2年ぶりに弘前公園の桜を見に足を運んだのですが、その際に思い起こした井伏の詩により、例年ただ楽しいだけだった桜の観賞が、今までになく感慨深いものとなりました。

この詩は「だからこうして会えている今を楽しんで大切に過ごそうじゃないか」というような柔和な意味も含んでいるとされます。それを知ると、これまで親しくしていた人たちと会っていた時間を無為に過ごしていたことへの軽い後悔のような、一抹の寂しさのような気持ちが生まれ、また会える機会が訪れることが一層待ち遠しくなり、楽しみになりました。

8月のお盆。未だコロナ禍である現状では、会いたい人と会うことがかなわないかも知れません。仏教には、会う人とは必ず別れる定めにあるとの意味の「会者定離(えしゃじょうり)」という言葉があります。ずっと一緒にいたいと願っても離れてしまう。だからこそ、会うことのできる機会を大切にしたいものです。

未だ重い閉塞感が続く中ですが、家族や大切な人と一緒に過ごすことを「心を弾ませ」ながら待ちわび、そして「再会」できたときには、その時間を一つひとつ大事にするように心がけたいですね。

(青森県弘前市 天徳寺 相馬恵泉)

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