浄土宗ニュース:2021年01月

浄土門主・総本山知恩院門跡 伊藤 唯眞 猊下
浄土宗の人は愚者になりて往生す
これは法然上人の確かなお言葉ですと、親鸞聖人のあるご消息(手紙)に書かれています。
それによりますと親鸞聖人は、法然上人は何ごとにも分別できないような無知であさましい人びとがやってくると、ご覧になって「必ず往生するにちがいない」と微笑まれていました。反対に学問ありげに賢ぶった人がくる場合には、「往生できるだろうか」と仰っておられたのをおそばで聞いたとのことです。
上人の眼差しがよくわかります。きっと、ものもおぼえぬあさましき人びとは上人を仰ぎ見、その温もりを感じ、信仰の世界に身を投じる人びとであったのです。彼らは疑うことなくお念仏を口にしていました。
天台宗を学んでいた禅勝房が上人から京土産にせよと示されたのが、「浄土の修行は愚痴に還りて浄土に生まると心得べし」という言葉でした。
さきの親鸞聖人が伝える言葉といい、あとの禅勝房が受けた教えといい、共に上人の心は一つであり、私どもが親しむ浄土宗の肝要が記されている「一枚起請文」に通じていることは言うまでもありません。

浄土宗には由緒沿革により全国に七つの大本山があります。そのご住職を法主といい、「ご法主台下」とお呼びしています。新年にあたり、ご法主台下から読者のみなさまに一口法話を頂戴いたしました。
大本山増上寺(ぞうじょうじ)法主 八木 季生 台下

新しい歳を迎えてお慶びを申し上げます。どうぞ本年が、平和と健康に恵まれ豊かな歳であることを念じます。現代のごとく科学、医学が発達していなかった時代には、無事に新年を迎えることに大きな価値を持っていたのでしょう。しかし平均寿命が80歳を超える現代では、新年を迎える意味合いが変わってきていると思われます。ただ昨年に始まった新型コロナウイルスは、依然として猛威をふるい一向に衰えを見せません。良薬の開発が期待されます。
大本山 金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)法主 久米 慶勝 台下
新型コロナウイルスに世界中が振り回されています。京都大学・堀江真行准教授は「地球上には10の31乗個ものウイルスが存在する」(『京都新聞』)と言われています。お経にもこうした途方もない数を示す表現がよく見られ、その一つに「劫」という時間の単位があります。一劫は40里(約157キロ)四方の石を100年ごとに細軟な布でこすり、全て摩滅しても終わらない時間をいいます。当山には「五劫思惟の阿弥陀仏像」があります。一人も漏らさず救う念仏の道を開くのに、五劫という計り知れない歳月考えられたことを表した頭髪のすごいこと。参拝の折には、そのご苦労に御礼の十念を。
大本山 百萬遍知恩寺(ひゃくまんべんちおんじ)法主 福原 隆善 台下
太陽系のはるか遠くにある宇宙の巨大な星が異常を示しているそうです。原因は今のところ不明ですが、地球の比較的に近いところ(といっても数百光年の距離)にある星ですから、太陽系に存在するガスが原因とする説があります。地球と関係があるのなら、私どもの日々の生活と無縁ではなくなります。すでに地球の温暖化や環境問題がとりざたされている昨今、新型コロナウイルスを契機として、自然界の一員である私共は、共に生きる道を求めなくてはなりません。
大本山 善導寺(ぜんどうじ)法主 阿川 文正 台下
令和3年の初春をお慶び申し上げます。浄土宗第二祖・聖光上人の著述の中に「念死念仏」というお言葉があります。上人は「安心・起行の要は念死念仏にあり」と申されました。安心(三心)は真実心をもって念仏をとなえれば必ず往生できるという確信、起行はその教えを実践する念仏行であります。何時お迎えがあるとも知れない我が身を意識して、日々念仏行に励む上での、あるべき心の持ちようであります。日々の生活が念仏生活でありますように。
大本山 光明寺(こうみょうじ)法主 柴田 哲彦 台下
オンラインビジネスそして授業、マスクにソーシャルディスタンスと、この1年間で日常生活は一変してしまいました。歴史上感染症は幾度も繰り返されてきました。しかしその都度私たちのご先祖は災禍を乗り越えてきたのであります。苦しい時こそしっかりとした信仰が大切です。ある外国人が日本の家庭のお仏壇を見て「日本は家庭にチャーチが有る」と驚嘆したとの話を聞きました。菩提寺であるいは家の仏前で、マスク着用合掌し、至心なるお念仏の日常を続けてまいりましょう。
大本山 善光寺大本願(ぜんこうじだいほんがん)法主 鷹司 誓玉 台下
明けましておめでとう存じます。コロナ禍にありながらも、新年を迎えられた事、殊更にありがたく感じます。昨年は自粛、社会的距離等、多くの制限に直面し、世界が混乱いたしました。犠牲を一人でも少なくし、バランスの取れた社会状態を復活させられるか否かは、結局、個人個人の生活態度に大きく左右される事を実感しました。念仏の教えを実践してゆくこととまさに重なるものと感じます。本年は禍を克服し、平和な新しい社会秩序が築かれる年となりますよう祈ります。

国重文「御影堂」修復のため
福井・西福寺
福井県敦賀市にある西福寺(鵜飼良昌住職)の国指定重要文化財「御影堂」を後世に伝えることを目的に、地元有志で結成された西福寺文化財事業奉賛会が同堂の修復費を集めるため製造・販売する米みそが話題を集めている。
同寺は応安元年(1368)に良如上人(1344‐1412)によって創建された。御影堂、阿弥陀堂、書院、四修廊下、庫裏が国の重要文化財に登録、1400坪の書院庭園は国の名勝に指定されている古刹。
木造建築の御影堂は文化8年(1811)に落成。築200年以上となるが、今まで大規模な改修は行われず、老朽化により屋根や床が少しずつ沈下。平成18年には屋根の落下防止のため、重さを支える足場が組まれ、現在もそのままになっている(写真右)。工事費は少なくとも20億円。9割が国や県などの補助金によって賄われるが、残り2億円を準備する必要がある。そこで、同寺では広く周知を図るために講演会や茶会などを行ってきた。
今回のみそ作りは、2年前にその講演会で講師をつとめた発酵学者の東京農業大学・小泉武夫名誉教授が発案したもの。それに賛同した奉賛会ら地元有志が同県の老舗みそ製造業者に協力を仰ぎ、令和元年7月に約500キロ、1000個分を仕込み、同2年9月から『西福寺門前味噌』と名付けて販売を始めた。
みそは石川県珠洲市のみで栽培され、〝幻の大豆〟とされる「大浜大豆」を使用。こうじは同寺周辺で収穫された米を、水は境内を流れる「長命水」を使うなど、同寺ならではの材料にこだわった。
同寺と市内外の協力店で販売されており、利益分が修復費に充てられる。購入者からは、香り高く、こくがある味だと好評で、売り切れの店もあるほど。購入するために何度も寺に足を運ぶ人もいるという。
これからもみそ作りを続けていきたいという同寺の西澤明登執事補は、「このみそをきっかけに西福寺に興味を持ってもらい、魅力を知ってもらえれば」と話す。今後は都市圏のアンテナショップでの販売も検討している。
御影堂は業者による調査を経たうえで、令和4年秋ごろの着工を予定。
問い合わせは同寺=0770(22)3926まで。

(西福寺文化財事業奉賛会会員が芳醇な香りに包まれながらみそをパッケージ詰めする)

(パッケージに描かれる御影堂のイラストは地元有志がデザインしたもの。西福寺や地元の協力店で500グラム980円(税込)で販売されている)

(宗祖法然上人を祀る西福寺御影堂)

京都・佛教大学
京都市北区にある浄土宗宗立学校の佛教大学では、田中典彦学長の任期満了にともなう学長選挙を11月11日に実施し、第13代学長に伊藤真宏仏教学部教授を選出した。任期は令和3年4月1日から4年間。
伊藤師は昭和39年生まれの56歳。法巖寺(兵庫県伊丹市)と見性寺(大阪市東住吉区)の住職。平成5年より佛教大学非常勤講師、23年に仏教学部准教授、令和2年からは仏教学部教授、仏教学部長を務める。

(伊藤真宏師)

奉賛会が勧募金を寄付
江戸年代に北アルプスの槍ヶ岳(3180㍍)を開いた浄土宗僧侶・播隆上人をたたえるため、毎年追慕登山を行う播隆上人奉賛会(代表=長野県松本市・玄向寺副住職荻須真尚師)が、同岳登山道整備のため協力金を募り、集まった40万円を11月27日に、北アルプス南部の山小屋で組織する北アルプス山小屋友交会(会長=山田直氏)に寄付した。
播隆上人は槍ヶ岳に初登頂した際、阿弥陀仏像などを安置。参拝者のために、はじめは藁縄、後に鉄の鎖で作った「善の綱」を設置し、槍ヶ岳開山と称される。
槍ヶ岳では現在、山小屋の収益の一部が登山道の保全に使われているが、新型コロナウイルスの影響で登山者が前年比で7割以上減り、費用の捻出が難しくなった。奉賛会では、上人が開いた槍ヶ岳の整備に役立ててもらおうと、9月から勧募を始めた。
協力金は現在も受付中で、寄付者には返礼品として播隆上人の名号が印刷されたTシャツが送付される。詳細は奉賛会(玄向寺内)=0263(46)1393。

(寄付金を持つ山小屋友交会の山田会長と返礼品のTシャツを掲げる荻須代表(中央))

栃木・圓通寺
『人権問題』にとりくむ栃木県宗教教団連帯会議(東好章議長)は、栃木県益子町の浄土宗圓通寺で、11月24日に被差別戒名物故者追善法要を行った。
これは、過去に神仏の「万物平等」の教えにそぐわない「差別戒名」を付与した反省のもと被差別部落の物故者を供養するもの。当日は人数制限をするなど感染対策をとり、浄土宗栃木教区長・内田清克師を導師として宗派を超え、40名により勤められた。
来賓には、伴乃昶浄土宗人権センター長はじめ、部落解放同盟から栃木県連合会和田献一執行委員長、川田薫書記長が参列した。
伴センター長は、「部落差別の解消は人権問題の原点。法然上人の『万人平等』の御教えのもと、この問題を風化させることなく継続して啓発活動に取り組んでいきたい」と想いを述べた。
同会では、今後も「差別戒名」改正の取り組みを続けていくという。