俳壇・歌壇

令和3年4月

浄土歌壇

堀部知子 選
投歌総数123首

大寒の農園に立つ実習生有機野菜に霜輝けり千葉 林 元子
情景が自然に見えてくる一首。大寒のなかに佇む実習生に、結句が効果的にはたらいている。
野牡丹の世話の仕方を教わりし人身罷りぬ 冬の夕焼愛知 横井真人
作者は冬の夕焼を見ながら亡き人を偲んでいる。紅紫色の五弁花の野牡丹は初夏に花が咲く。
色失せし菊に初雪降り続く経帷子を纏はす如くに埼玉 山本 明
下句に作者独自の把握があり、降り続く雪が鮮明になり、しかも初雪。菊をあらたな姿にする。
弟のストライダーを真ん中に銀輪連ね図書館目指す京都 根来美知代
冬枯れのケヤキ並木の高枝に残るカラスの生活の跡栃木 小峰新平
メモにないビールをカゴに忍ばせて買物終える週に一、二度大阪 安藤知明
白き雲形を変えて流れゆくライオン走る青空の中愛知 三澤貞子
朝冷えに杖つく指のしびれきてイチゴハウスの日向に温む三重 服部浩子
爽やかな園児の声にまた一人歩みを止めて遊戯に見入る岡山 矢川忠彦
大寒の空暮れなずみ山あいの高速道路に連なるライト岡山 長谷川多佳子
コロナ禍にステイホームという苦行猫と並んで外を眺むる大阪 津川トシノ
嫌み言う私の短所が顔を出すお節介までさらに顔出す青森 中田瑞穂
山門に響く僧らの阿弥陀経京に自粛の春の寒風京都 神居義之
菜園の空気のおいしさ心地良く両手を広げ深呼吸する長崎 吉田耕一
値が立たぬ杉や桧を薪にする三代続くが苦労の現実奈良 中村宗一
添削元歌の下句「三代の苦労悲しき現実」。

浄土俳壇

坪内稔典 選
投句総数204句

菜の花をさっとゆで母のかっぽう着栃木 茨木あや子
母の割烹着姿の回想? あるいは、母の割烹着を身につけたとき、あたかも母のようにさっとふるまったのかも。
あおさ摘む島のばーばの腕まくり長崎 平田照子
あおさの匂いが快い。風はまだやや冷たい。
料峭やことこと肉じゃが煮ておりぬ埼玉 須原慎子
「料峭」は春風を肌に寒く感じること。季語としてしか見ない言葉だが、こんな言葉を使うと、ちょっと世界が広くなるかも。
春の駅はらはらコートの肩の雪兵庫 小野山多津子
雛人形蔵の奥からこんにちは山梨 山下ひろ子
春一番船は玄界灘の底長崎 村田一子
生き甲斐を重ね卒寿の初句会福岡 山村喜美枝
短めに髪整えぬ春を待つ大阪 長澤ひろ子
二歩毎に妻を待ちつつ初詣埼玉 山本 明
冬木立青空を背にレースあみ東京 土屋京子
おしくらまんじゅう了へて始まる三学期岩手 佐々木敦子
この庭の紅白の梅ありし頃福岡 古賀幸子
注連飾り堂、井戸、水道、便所にも愛媛 千葉城圓
今日からは春の窓辺や朝ぼらけ石川 永田園子
菜種梅雨ふた駅先は岩手県青森 中田瑞穂
茫洋と馬鹿面をして春や春山口 沖村去水
クロッカス花壇の隅に蕾つけ東京 津田 隆
春一番老女は五指で髪を梳く長崎 吉田耕一
さるぼぼを吊る軒先や春の雪岐阜 石崎宗敏
無縁坂寺門に残る春の雪東京 三沢清之助
棟上げの掛矢打つ音春の昼大阪 岡崎 勲
煮凝りが大好きだった父がいた奈良 中村宗一
失くしたる手袋のあり塀の上神奈川 中村道子
添削「手袋塀の上にあり」の語順を換えた。語順の転換は推敲の大事なポイント。

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