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連載 仏教と動物  第4回 師子にまつわるお話

2021年09月01日

イラスト 木谷佳子

お釈迦さまの前世における物語『ジャータカ』をはじめ多くの典籍(仏典)には、牛や象などの動物から、鳥や昆虫、さらには空想上のものまで、さまざまな生き物のエピソードが記されています。この連載では『仏教と動物』と題して仏教における動物観や動物に託された教えについて紹介しています。

第4回目は、百獣の王と呼ばれ、威厳のある動物「ライオン(師子)」を取りあげます。

威風堂堂

ライオンは、「獅子舞い」などというように、一般的には「けものへん」を付けた「獅」を用いることが多いですが、仏教の漢訳経典では、「師子」とするのが普通です。

古来、師子は、威風堂堂(いふうどうどう)として何ものをも恐れることがないと考えられていることから、百獣の王ともいわれています。同様に、仏さまや菩薩さまも、その毅然(きぜん)として威厳のあるお姿から、しばしば師子に譬(たとえ)えられます。

仏教には「師子吼(ししく)」という言葉があります。師子が一声高く吼(ほ)えると、獣たちは皆その声に恐れをなして服従の心を抱くように、仏さまが教えを説かれると、聞いた人々は皆、仏さまの教えに従うようになるので、仏さまの説法のことを「師子吼」といいます。

ここで、『ジャータカ』にある師子にまつわる説話の一つを紹介します。

ライオンとトラ

その昔、ブラフマダッタ王が治めていたインドのカーシ国の都のはずれに、大きな深い森がありました。そこには、ライオンのスダータとトラのスバーフ、それに1匹の山犬が住んでいました。山犬はいつもライオンとトラに取り入って、彼らの食べ残しをもらって暮らしてきたので、丸々と太っていました。

ある日、山犬はいつものように食べ残しをもらって満腹になり、ごろりと寝そべって考えました。

「今日までにおれは、色々な肉を食べたが、ライオンとトラの肉は今まで一度も食べたことはない。こいつらの仲を裂いて争うように仕向ければどうだろう。2頭とも共倒れになればしめたものだ」

山犬は早速、ライオンのスダータのところへ出かけ言いました。

「あのトラはあなたの悪口ばかり言っていますよ。ライオンなんてダメな奴だって。毛並みや体つきにしろ、生まれや力強さや勇気にしても、私の16分の1にも及ばないって」

するとスダータは、

「消え失せろ、山犬。私の親友スバーフはそんなことを言うやつではない。このうそつきめ」と、どなりつけました。

がんとして答えるライオンの前から引き下がると、山犬は舌打ちをし、今度はスバーフのところへ出かけ、同じことを言いました。

トラはびっくりして、ライオンのところへ行って歌うように問いかけました。

「私の親友スダータよ 君はほんとに 言ったのか 毛並みや力 体つき 私が君に かなわぬと」

スダータは、これに答えて歌を唱えました。

「私の親友スバーフよ 心卑(いや)しい山犬は 同じことを私にも 告げ口したが我が友よ 君を信じる私なら なんで虚言を信じよう」

「君と私は友達で 平和に日々を過ごしたが もしも平和なその日々を 壊す気ならばもう二度と 共に住むのは望まない」

「他人の言葉を吟味(ぎんみ)する 知恵も持たずに簡単に 信ずる者は友達も すぐに離れてしまうだろう 敵もたくさんできるだろう」

「勝手気ままで だらしなく 友を疑い欠点を 探す輩(やから)は友じゃない 僅(わず)かな疑問も挟まずに 母に抱かれてすやすやと 眠る子どもの無心さは 壊すことなどできぬもの そんな友こそ本当の 友と呼ぶのに値する」

友情がいかに大事なものかとスダータに教えてもらったスバーフは、大変感激して、山犬の言葉を信じた自分の浅はかさを恥じ、心から謝りました。

悪巧みに失敗した山犬は、2人の怒りを恐れて遠い場所に逃げ出しました。その後、2頭は仲良く森の中で暮らし続けたといいます。

信じあうこころ

お釈迦さまは国の王子として生まれる前、さまざまな生き物として生まれ変わり、幾度となく善行を積んだ結果、ブッダ(覚者)となりました。

このお話に登場するライオンはお釈迦さまの十大弟子であり「智慧第一(ちえだいいち)」と称されたサーリプッタ(舎利弗(しゃりほつ))の、トラは「神通第一(じんずうだいいち)」と称されたモッガラーナ(目連(もくれん))の前世の姿。2匹をだまそうとした山犬は、2人から食べ物をもらっていた物貰(もら)いの前世の姿です。そして、過去世のお釈迦さまは森に住む精霊として、この出来事を目の当たりに見ていました。

山犬は二枚舌を使い2匹の仲を裂こうとしました。たとえ信じあう仲であったとしても、一つの言葉で揺らいでしまうのが私たちの心です。疑いが生じた時に本音で話し合えるのが真の仲間。そんな友人の大切さを表しています。

【コラム】貴人の坐する台座 獅子座

 

獅子に坐る文殊菩薩 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)をもとに写真を作成

「獅子座」とは、仏さまが坐(すわ)られる座席のことを言います。インドでは、一般に国王など貴人の坐る台座を獅子座と呼び、その呼称を仏教が取り入れたものです。お釈迦さまを百獣の王である獅子に譬(たと)え、その座所を獅子座と呼んだものだと解釈されます。

日本にも中国から「唐獅子」が入ってくると同時に、仏教の獅子座の思想が伝わりました。

奈良時代や平安時代に密教が伝来しましたが、これら密教の仏さまの中には、獣座に坐っている仏さまがとても多くいます。その中で獅子に乗っているのは、毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい=大日如来)のほか、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、不動明王(ふどうみょうおう)などです。

このように、獅子に乗っているのは、根本仏である大日如来をはじめ、智慧第一といわれる文殊菩薩など中心的な存在の仏さまや菩薩さま・天部などであることがわかります。これは、他の動物よりも獅子を重くみるという獅子座の思想からきていると思われます。

ところで、仏教では高僧に対する敬称として「猊下(げいか)」という言葉がありますが、この「猊」とは獅子のことで、これも獅子座の思想から出た言葉です。

 

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