俳壇・歌壇

令和3年10月

浄土歌壇

堀部知子 選
投歌総数198首

ざっと来てすぐ止む雨にあま蛙みごと一節合わせて鳴きぬ秋田 鈴木修一
この一首のように詠まれてしまうと「たしかに」と思いあたる人もあろうかと、共感を呼ぶ一首。
お嬢さん早く見つけて下さいね温泉の栗の花が満開青森 中田瑞穂
多作者のお一人でもある。栗の花が作者に呼びかけているのですね。「お嬢さん」が効果的。
軒先にハイビスカスの花の燃ゆ通り過ぎつつ覗きたき思いに兵庫 堀毛美代子
この一首のような気分になったことあります、あります。下句に作者の思いと仕草が見えるようだ。
網戸に来て鳴く蝉はなぜ人恋しステイホームの我を見ている埼玉 塚﨑孝蔵
東京の娘に送る野菜採りに夜明けと共に畑に出向く大阪 林 孝夫
老い二人白川郷に歩を休め五平餅食むゆっくりと食む滋賀 北川徳子
楊貴妃の仔細数行謡本のすぐに左へ傾ぐ見台京都 根来美知代
悲しくも掃き溜め菊と呼ばれしも他に花咲く道の無ければ埼玉 山本 明
中国と友好を機に吾も参加着物姿に詩吟を披露する群馬 新井日出子
はるかなる呼び声に似て風うたうゆったり点てる抹茶一服 石川 五十嵐一雄
信仰の篤き婦人の背を照らし路傍の佛に朝日の届く宮崎 小野加子
往年のイージーライダー今は止め娘の旧い原チャリに乗る栃木 小峰新平
木犀に這ひ上りたる朝顔に暑さも退きぬ八朔の朝東京 田中恭子
老いぼれは籠りて源氏に親しめり灯火秘かに少女のように和歌山 原 鉄也
青田吹く風に乗りくる故郷の田圃見廻る亡き父の姿神奈川 相田和子
添削元歌の結句は「父の顕ちくる」であった。

浄土俳壇

坪内稔典 選
投句総数214句

かけっこの形の夫三尺寝東京 椎野恵子
季語「三尺寝」はちょっとした昼寝、大工さんなどの昼寝を言った古い季語だ。椎野さん、夫にその昔の三尺寝を感じ、ちょっと笑っている。
連れていく影も秋めく一万歩青森 中田瑞穂
長くなっているのでしょうね、影。「連れていく」がいいなあ。散歩が楽しくなりそう。
一息で吸い込む僧の心太和歌山 福井浄堂
自画像だろうか。勢いがあって秋の暑さやコロナの憂鬱がふっとびそう。
少年は変声期なり夏蜜柑熊本 土佐千洋
すれ違うランナー夏の香を残し埼玉 山本 明
忌々しこの蚕豆は外れだわ神奈川 上田彩子
冠木門越して旧家の百日紅大阪 渡邊勉治郎
下敷もペンも字引も残暑なり群馬 木村住子
掛茶屋の椅子は切り株夏つばめ鳥取 徳永耕一
髪カット西瓜オクラに夏帽子長崎 松瀬マツ子
散歩道朝の芙蓉の白さかな愛媛 千葉城圓
墓洗ふ父は享年三十二  岡山 矢川紀代子
縁側のクレヨン絵の具蝉時雨 滋賀 野口直子
通されし和室に蚊帳の吊手跡 岩手 佐々木敦子
夕端居猫の頭を撫で回し栃木 伊藤和子
僧坊の陰に惹かれて角曲がる京都 佐野次郎
おろしたての鎌夏草をひと薙ぎに 群馬 長京子
花茣蓙やテレビをつけて眠る夫神奈川 中村道子
孫からのメールでアイス買い揃え奈良 中村宗一
逃げ水を子供も猫も渡りけり大阪 大内純子
山陽路一歩一歩に蝉しぐれ東京 津田 隆
コロナ禍で何もせぬまま文月去る大阪 林 孝夫
さりげなく打ち明け話日雷大阪 光平朝乃
蜩や村に一つの立ち寄り湯東京 山崎洋子
時々は脱いで風待つ夏帽子大阪 岡崎 勲
復興の町に上がりし盆の月福岡 古賀幸子
マスクとる青紫蘇畑へ続く道 山梨 山下ひろ子
添削原句は「青紫蘇畑の香の中を」だった。青紫蘇畑だけで香りは読者に十分に伝わる。

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