行事・法要

灌仏会(花まつり)

お釈迦さまのお生まれになった4月8日に、その誕生を祝う行事です。
花々に彩られた花御堂の中にいらっしゃる小さなお釈迦さまのお像に甘茶をかけた、という記憶があるかもしれません。これは、お釈迦さまが誕生された際、天から神々が降りてきて祝福のために甘露の水を注いだという経典の説示に由来します。一般には「花まつり」の呼び名で親しまれています。ご命日に勤める涅槃会(2月15日)や、さとりを開かれたことを記念して行う成道会(12月8日)と並んで、釈尊三大法要の一つに数えられます。
ここでは、お釈迦さまの誕生について紹介します。

お釈迦さまの誕生

今から約2500年前、ヒマラヤ山脈の麓にシャカ族という部族が住んでいました。部族の王の名前はシュッドーダナ、その妃をマーヤーといいました。

ある日、マーヤー夫人は不思議な夢をみました。夢の中で夫人は、天から現れた神さまに抱えられ、空をぐんぐん昇っていきます。そして、気がつくと広い草原に降り立っていました。そこは心地よく、夫人の心を穏やかにさせました。思わず横になり休んでいると、どこからか鼻に白い蓮の花を持った白い象が現れました。夫人がそれをぼんやりと眺めていると、次の瞬間、象が夫人の右脇にスッと入りました。
ハッとして夢から覚めた夫人は、身体の異変に気がつきました。そう、新しい命が宿っていたのです。

このことを聞いたスッドーダナ王は大変喜びました。また、神聖な動物とされる象が夢に現れたということも、その喜びを大きくさせました。その日から、2人にとって世の中は輝きと希望に満ち溢れ、生まれくる子のことを思えば、穏やかな気持ちになれたのです。

月日は流れ、出産をひかえた里帰りの途中、夫人はルンビニという庭園を散歩していました。そこは色とりどりの花が咲きほこり、鳥たちはやさしい声で歌っています。美しい景色を眺めながら、夫人は間もなくその胸に抱く我が子のことを考え、幸福な一時を過ごしていたことでしょう。夫人はふと立ち止まり、梢に咲く花をとろうと右手をあげました。すると突然、右の脇が光り輝きだし、大勢の天女が舞い降りてきたのです。そして、次の瞬間、右脇から男の子が産声をあげました―

この時、生まれたお釈迦さまの頭上には、龍によって清らかな水(甘露水)が灌がれ、その誕生を祝福したとされています。こうした故事に習い、花まつりではお釈迦さまのお像に甘露水に見立てた甘茶をかけ、その誕生をお祝いするのです。

〝天上天下唯我独尊〞の本当の意味

〝天上天下唯我独尊〞。これは、生まれたばかりのお釈迦さまが7歩歩き、右手で天を、左手で地面を指さしながら、おっしゃったとされる言葉です。「この世界で私(我)より尊いものはいない」。文字だけみると、そう読み解けます。いくらお釈迦さまとはいえ、少し傲慢な感じがしますが、「他者と比較して自分だけが」ということではないのです。
お釈迦さまの言う「私」とは、この世に存在するすべての「私」――つまり世界中の「私たち一人ひとり」の「私」。お釈迦さまはこのエピソードを通して、この世に生を享けた、すべてのもの、一人ひとりの「いのち」は、「他の誰とも代わることのできない絶対的な尊さ」をもったものであり、だからこそ、尊い者どうし、おたがいがおたがいを尊重し、「慈しみ合うことの大切さ」を私たちに教えてくださっているのです。