一緒に冒険しよう

4歳になる息子がなかなかお風呂に入ってくれなくて、毎日手を焼いています。

本人に「どうしてお風呂に入りたくないの?」と聞いてみたら、「スマホ見たい妖怪と、動画見たい妖怪と、お風呂に入りたくない妖怪がいるから~!!」とニヤニヤ顔で答えてくる始末…(金曜日の夕方は妖怪ウォッチ放映の直後)。

息子はシャンプーの際、シャワーが顔にかかるのが苦手なようで、お風呂に入りたがらない主な要因はこれです。いろいろと工夫はしてみたものの根本的な解決には至らず…。定番のシャンプーハットを嫌がる息子にどうにか装着して、「ほら、シャワーが顔にかからなくてよいでしょう」と一旦は説得してみたものの、一度、たまったお湯が決壊して大量に顔面へ浴びせかけられて以来、まったく受けつけてくれません。

最終的に、乳児の頃から顔を拭くのに使い続けているガーゼを、かたく目をつぶった顔面に当てて、それに両手をそえた状態で「怖いよ~」「はやく終わって~」「(勝手に)3、2、1、ゼロ、おしまい~」とか叫びながら、ひたすら耐えるという、やや原始的なやり方で挑んでいます。毎回、大パニックに陥った悲鳴が周囲の建物にまで響き渡って大変です…。

そんな息子が最近あらたな試みを行うようになりました。基本的な姿勢こそ、先ほどのガーゼを顔に押し当てるだけというストロングスタイルのままですが、そこへお気に入りのドラえもんの主題歌を全力で歌いあげるというアイデアが加わりました。
※写真はドラえもんの秘密道具のアンキパンのグッズ(UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみ?とTシャツとミニバッグ)を装着する息子。本人いわくアンキパン怪獣。

現在のドラえもんの主題歌は、お馴染みの「アンアンアンとっても大好き♪」ではなく(ドラえもんは「どら焼きの餡子と皮のどちらが好きか論争」がなつかしいですね)、星野源さんによるキャッチーかつリスペクトフルなポップソングが採用されています。

息子は新しい主題歌が気に入っていて、スマートフォンで星野源さんのミュージックビデオを流すように何度もリクエストしてきて、それを模倣しながら、歌って、踊ってをひたすら繰り返して、やや不完全ではあるものの(それがカワイイのですが)、どうにか会得しました。

さぁ、いよいよシャンプー戦での本番の巻。まずさっと頭にシャワーをかけます。ここで息子は慌てません。落ち着いています。次にシャンプーを手に取り、髪の毛を泡立てます。息子は「泡はそんなにたくさんいらないよ…」とつぶやき、やや不安げになってきました。ですが、まだ何とか落ち着いています。次に後頭部の方から洗い流し始めました。この辺の手順はおおよそ心得ているのでまだ安心顔。落ち着いています。いよいよ頭頂部から先を洗い流す場面に差し掛かったところ。

「流すの一回やめて~!」と。

さて、どうするのか、と思っていると、おもむろに自らの左の手の平をお腹の前にさし出し、右手の人差し指を当てがって、「ピッ」と押しています。大人には見えないスマホ動画妖怪の手を借りて、さぁミュージック・スタートです!

「デッテテッテッテッテ~♪デデッテテッテッテッテ~♪(前奏)」。

ここから先は息子の独壇場。お風呂内リサイタルです。「だから冒険しよう~♪ 一緒に冒険しよう~♪」。若干、歌詞が間違っているのは玉に瑕ですが、その勢いは本物。「な~に~者でもなくても世界を救おっおう~♪」。このあたりから一緒に歌うことを強いられます。

「き~み~に会えるよ!ドドドドドドドドドドドドドドドドドッド~、ドラえもん!!」。最後は一緒に大合唱!

息子選手、なんとこの厳しい局面を笑顔で脱することに成功しました。お風呂の椅子に座らされた窮屈な姿勢のまま、想像の翼を目いっぱい広げて、架空のスマートフォンを片手に、ドラえもんの歌を、歌い、踊り、信じ抜いたわけです。

シャンプー戦を乗り切るのを手助けしてくれたのは、日々歌い踊り続けて蓄積してきた楽しい記憶と涙ぐましいドゥー・マイ・ベストの実践でした。土砂降りの恐怖のなかを、唯一手のうちにある大切なお守りを頼りにして、全速力でかけ抜けてゆく息子のアスリート然としたひたむきな姿はどこか神々しくもありました。

ドラえもーん。その名を呼ぶだけで、あらゆる願いを叶えてくれる。願いを聞き届けると、不思議なポッケで叶えてくれる。みんなみんなみんな叶えてくれる。過去を、現在を、未来を、自在に行き来して、世界中でヘルプの声をあげている少年少女たちを何としても救わん、という広大深奥な誓いを立てて、あえて未来に帰らず、娑婆世界に残って活動を続ける利他心あふれる菩薩でもあるとか、ないとか。

困ったときは我が心のヒーローの名前を呼び、素直にヘルプを求め、そして、それを信じて肩を借りながらも一緒に走り抜けること。固く結ばれた信頼関係のもとでこそ成立する、ワクワクドキドキするような特別な時空間。一途な想いを寄せ切れない大人には、簡単そうでなかなかに難しいものです。

ひと夏のはじまりに、息子は「き~み~に会えるよ!」と震えながら勇気を絶叫する、えがたい冒険を経験してくれました。大切にしてほしいと思います。

(2021年7月26日 工藤量導 / 青森・本覚寺)