今月の言葉

2024年4月:開宗の文(法然上人が浄土宗を開くきっかけとなった要文)

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開宗の文(法然上人が浄土宗を開くきっかけとなった要文)

Let us practice nembutu wholeheartedly.Namu Amida Butsu.

皆さん。読書は好きですか。私は大好きです。時間を見つけてはなにかしらを常に読んでいます。本は自分が見たこともない世界や物語を体験させてくれます。見たこともない異国の情景や文化、手に汗握る冒険の世界、涙無しには読めない悲恋の世界、故人の深淵な哲学思想などなど、本さえあれば部屋から一歩も出ずにどんな世界にも遊びに行くことができます。そして本を介したそれらの世界での体験は自分の糧となります。本の力は絶大です。皆さんも人生を変えた一冊が何かあるのではないでしょうか。

法然上人にも人生を変えた一つの書物との出会いがあります。それは、中国唐代の高僧・善導大師の『観経疏』です。当時の仏教では、救われるためには難しい修行や厳しい条件が必要であるという見解が一般的でした。そこで、法然上人は誰もが平等に簡易に救われる教えを求め、比叡山黒谷の青龍寺で毎日、一切経とよばれる仏教の経典や論書を紐解いていました。そのような中、出会われたのが、今月のことばである「一心専念弥陀名号(一心に専ら弥陀仏の名号を念ず)」に始まる善導大師の『観経疏』の一節です。平易に言い換えれば、「往生できると信じて(一心)、ひたすら(専)、阿弥陀仏の名号をおとなえする(念弥陀名号)」となります。法然上人はこの『観経疏』の一節との出会いをきっかけに、「誰であったとしても、往生極楽を願って南無阿弥陀仏とひたすらとなえるだけで、極楽に往生することができる」という浄土宗をお開きになりました。その後、お念仏の教えは法然上人の人生を変えた様に、多くの人々の人生を変え、全国に広まり、時代を経ても変わることなく継承され、今なお我々に生きる力を与え続けています。

ちょうど今年は法然上人が『観経疏』の一節とお出会いになってから850年目と、節目の年になりました。はるか昔の『観経疏』との出会いが、上人の人生を変え、そして後の世に生きている我々の人生を変えたのです。我々の支えとなっているお念仏の教えは、上人と一冊の書物の出会いがきっかけだったのです。
一冊の本との出会いが人ひとりの人生を変えるように、お念仏の教えとの出会いが皆さまの人生をより良いものに変えることを願っています。
(滋賀県大津市 西方寺 田中裕成)