2024年5月:比べなくても あなたはあなた
新緑が目に鮮やかな季節になりました。私はスギの花粉症なので、久々に新鮮な空気を思い切り吸い込めてうれしい毎日です。お檀家さんに会えば、「良い季節になりましたね」とあいさつを交わしています。
しかし、ふと考えてしまいます。本当に良い季節なのかしら、と。私にとっては良い季節でも、イネの花粉症の方にとってはピークを迎える悪い季節かもしれません。「良い」も「悪い」も人それぞれに異なるもの。「季節」はただ「季節」に過ぎず、私たちが勝手に個人的評価をつけているだけなのかもしれません。
私たち自身も勝手な評価をお互いにつけ合い、時にそれに苦しんでいると感じることが多々あります。職業柄、悩みの相談を受ける機会がありますが、そこで気づくのは評価されたり、比べられたりすることに疲れている方々がたくさんいるということ。この世界は小さいころから、成績という評価軸で他人と比べられる競争社会です。例えば95点をとっても、親からはほめてもらえずに、「なんでこの5点ができないんだ!」と叱られていたなんてお話をうかがったことがあります。その親にとっては「95点を取ったがんばった」子ではなく、「あと5点を取れなかった残念な」子になってしまい、本人もご自分をそう思うようになってしまったのだそうです。
家庭や学校では「良い子」や「普通の子」であることを求められ、ちょっと外れてしまうと「ダメな奴」「変な子」というレッテルを貼られてしまう。大人になっても同様で、いつまでも他者からの評価を気にする社会に生きなければなりません。疲れてしまうのも自然なことです。
浄土宗が拠り所とする経典『阿弥陀経』に、「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」という一節があります。これは極楽浄土では青い花は青い光を、黄色い花は黄色い光を放つという描写で、それぞれの花がそれぞれの光で輝く、その良さを示したものです。
阿弥陀さまの世界は、評価されることも比べられることもなく、みんながそのままでいて良い世界。現代社会はなかなかそうはいきませんが、阿弥陀さまはいつも、「あなたはあなたのままでいいんだよ」と語りかけてくれています。
(東京都府中市 蓮宝寺 小川有閑)