2025年11月:見えないけれど 大切なもの
私はハワイ州オアフ島のハワイ浄土宗別院とカウアイ島のカパア浄土院、コロア浄土院の3カ寺で開教使として務めております。
 カウアイ島のお檀家さまでふみさん(仮名)という90歳の女性がいます。この方は少し認知症が進んでおり、最近起きたことをほとんど覚えていません。昨年旦那さまを亡くされたのですが、そのこともよく忘れてしまいます。
 ふみさん夫妻は、ハワイ教区の檀信徒大会で出会い、結婚。それから60年以上連れ添った筋金入りの浄土宗檀信徒です。カパア浄土院では、月に1回日曜礼拝を行っており、これにご夫婦で毎月欠かすことなく参拝して、長年にわたりカパア浄土院を支えてくださった功労者でもあります。
 ふみさんは朝起きると娘さんに、「夫はどこにいるの?」とよく尋ねるそうです。娘さんが「お父さんは去年亡くなったよ」と返事すると、まるで初めてその事実を知ったかのように泣いて悲しむと言います。娘さんもその姿を見るたびに、心が痛むと話し、私もこのお話を伺った時にとても心が苦しくなりました。大切な人が亡くなる悲しみや苦しみは計り知れません。それが毎日繰り返されると想像するだけで心が締め付けられる思いです。
 ふみさんが旦那さまの逝去を悲しんでいると、娘さんは仏壇の前にふみさんを連れて行くそうです。そこには旦那さまの遺影やお位牌が祀ってあるので、ふみさんはそこで旦那さまの逝去を認識されます。そしてそこから旦那さまのことを思い、一生懸命にお念仏をおとなえして、旦那さまの逝去を受け入れるそうです。
 60年以上もご夫婦で一緒にとなえてきたお念仏なので、「南無阿弥陀仏」とおとなえすることによって、まるで旦那さまが横にいて一緒にいるかのように思えると話してくれました。お念仏をおとなえした後は、「阿弥陀さまの温かい慈しみ」によって、こころの安らぎや平穏を得て、旦那さまの逝去を受け入れることができるのでしょう。
 そこに長年寄り添い支え合った、ご夫妻の深い愛情とオハナ、阿弥陀さまへの信仰の尊さを学ぶことができます。
 目には見えないのですが、毎日のお念仏や、他者への心遣いなどの日常の小さな行動を積み重ねることで、慈悲の心を見いだすことができるのです。(ハワイ ハワイ浄土宗別院 髙野明宏)