2024年3月:未来を信じ 今日を励む
第58代横綱千代の富士。「ウルフ」の愛称の通り、精悍な顔つきに筋骨隆々とした肉体美を持ち、少年時代の私をテレビに釘付けにした、昭和から平成にかけて活躍された力士です。
優勝回数や通算勝ち星等々、輝かしい成績を残し、記録にも記憶にも残る大横綱。しかしその土俵人生は順風満帆なものではありませんでした。
千代の富士は入門当初、力士の中では体格に恵まれていませんでしたが、身体能力が高く、力が人一倍強かったため、強引な相撲が目立っていました。しかしそれが仇となり、度重なる怪我に悩まされます。特に幾度となく襲った肩の脱臼は深刻で、力士生命を脅かすものでした。
引退も頭をよぎる中、一つの決意を固めます。それは毎日500回の腕立て伏せを欠かさずやるというものでした。これは肩の周りの筋肉を鍛え、怪我を予防また克服するためのものです。今日の一つ一つの積み重ねが、自らの未来へと必ず実を結ぶと信じて励まれたのだと思います。もちろん毎日500回の腕立て伏せというものは、千代の富士の努力の中の一つに過ぎません。しかしこれが、強靭な精神力と肉体を作り上げ、大横綱へとなっていく礎となったことはいうまでもありません。
私たちの日常においても同じことが言えます。仕事や学問、趣味の分野など様々な事柄の中で、今日の一日を励み、そしてその一日をしっかり積み重ねていく。順調なときもあれば、うまくいかないときもありますが、しっかりと日々を歩むことが、自らを豊かにし、必ず実を結んでいくはずです。
お念仏の信仰において宗祖法然上人は、「一紙小消息」というお手紙の中で、「行は一念十念なお虚しからずと信じて、無間に修すべし」とお示しくださいました。これは一声や十声のお念仏であっても必ず往生の実を結ぶと信じて、日々おとなえしなさいとのお示しであります。お念仏をおとなえしていく日々を重ねていくことで、私たちの心は豊かになり、命終(現世で命尽きるとき)には必ず極楽浄土へ往生を得ることができるのです。
人生山あり谷あり。平坦な道ばかりではありませんが、自分や目標を見失うことなく、お念仏の信仰も生活の中の様々な事柄も、その日々の歩みをしっかりと進めていきたいものです。
(熊本県熊本市 往生院 永目眞爾)