2022年6月:称えるうちに雲晴れて
「紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘」。これは、正岡子規の有名な一句で、人の心の移り変わりを花に喩えて詠んだ句です。
2年以上続くコロナ禍、ウクライナ侵攻、さらには地震や大雨による自然災害など、この時期の曇天のような世情で、心も暗くなってしまいがちではないでしょうか。そのなか、ちょっと自分の心を覗いてみるとどうでしょう。些細なことでカッと怒っていると思えば、今度は楽しく笑っている。毎日さまざまな要因によって心は振り回されています。
仏教では、特に身を滅ぼしてしまう煩悩のことを「三毒」といい、貪(むさぼり)・瞋(いかり)・痴(おろかさ)の三つを指します。これらの煩悩をどうしても抱えてしまうため、私たちは皆迷いの世界に生きる凡夫なのです。
月参りの際、あるお檀家さんとお話をしていた時のことです。「お念仏はありがたいですね。何かあったらお念仏をとなえながら、仏さまに愚痴を聞いてもらっているんですよ。すると心が軽くなった気がして、気付くと仏さまのお顔が目の前にあるんです。一種のカウンセリングみたいですね」と笑いながらおっしゃっていました。
よくお話を聞いてみると、ご先祖さまやお浄土のことを想ってお念仏をとなえていると、自分自身の悩みや愚痴がだんだんと頭の中を駆け巡り、さらにお念仏を続けると、自然と阿弥陀さまのお顔を見ながらお念仏をするようになったそうです。
宗祖法然上人は、念仏信者からのさまざまな質問に上人がお示しになったお答えをまとめた『一百四十五箇条問答』の中で、「どうしても心に妄念(煩悩)が起きてしまうのをどうしたらよいか」、という問に対し、「ただよくお念仏をしなさい(念仏すれば、妄念も静まりますよ)」とお答えになられました。
私たちは日々生きていくうえで、ついつい心の中を煩悩で曇らせてしまいがちです。しかしながら、一心にお念仏をおとなえするうちに、阿弥陀さまの光明が、心を明るく照らし、晴らしてくださいます。
世情や気候によって、心まで塞がってしまう時機ですが、今こそお念仏をとなえる日々を送ってみてはいかがでしょうか。
(大分市浄土寺 結城文親)