今月の言葉

2022年10月:一声一声に想いを託して

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一声一声に想いを託して

The vow of attaining Birth in the Pure Land must always accompany your chanting of Namu Amida Butsu to wards Amida Buddha.

運動の秋。私の住む地域ではこの季節に運動会を行う学校が多くあります。
その中、昨年の運動会で良い結果を残せず泣いて悔しがっていた生徒に先生が「しょうがない、そんなこともあるよ! 次がんばろう!」と声をかけ励ましていたことが心に残っています。彼の悔しい思いはすぐには拭えないでしょうが、いい頃合いで心に響いて前を向ける気がしました。それから私も「しょうがない、そんなこともある!」と口にしています。口にすると気持ちを上向きにしてくれる一言です。
ご主人を亡くされたあるお檀家さんが、いつも十遍のお念仏の後に「ありがたい!」と一言付け加えておとなえをされます。「……なむあみだぶつなーむあみだぶー、ありがたい!」というふうに。私が理由を尋ねると「姑さんもそう言っていたことを思い出して、なんでだろうと真似してみたんです。そうしたら、なんだか具合が良くて癖になりました」と話してくれました。そのお話の中で、一番印象深かったのは「嫌な気分の時に、グチグチ考え続けるより、パッとあきらめて少しでも良い部分を見つけられるようになった」という点でした。この言葉も、心を上向きにしてくれるようです。
法然上人は「浄土に往生せんと欲わば、心と行との二つ、相応すべきなり」(『往生大要抄』)と示されました。
これは、阿弥陀仏の極楽浄土に生まれたいと願うなら、救っていただけるという疑いの無い心と、お念仏をおとなえする修行がどちらも欠けずに一致しなければならない、ということです。阿弥陀仏の救いに出会えた喜びの心がお念仏の声を助け励まし、その声がまた心を助け励まして修行が続くのです。
この世界は良きにつけ悪しきにつけさまざまな縁によってもたらされています。私たちの思い通りになる事もあれば、どうにもならない事もあります。悪い状況で心が乱れた時こそ「しょうがない、そんなこともある!」と一言。心を助け励まし上向きにしてくれます。
先ほどのお檀家さんも、ご主人を亡くされた悲しみから、お念仏のご縁が深まりました。一声一声のお念仏に供養の想いを込め、自分もまた往生できる喜びを噛み締めながら「ありがたい!」と一言付け加えるのは、より明るい気持ちで生活できる秘訣のようです。
(福井県大野市 善導寺 大門哲爾)