今月の言葉

2023年3月:一つの言葉が励みとなる

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一つの言葉が励みとなる

A casual remark that you make encourage others.

「何をそんなに深く嘆くことがあるのでしょうか。昔から深い縁で結ばれているのだから、同じ蓮の上に座ることになりましょう。極楽浄土ですぐ会えます。今の別れはひと時の悲しみであって、春の夜の夢のようなものですよ。(中略)南無阿弥陀仏ととなえるなら、住む場所は隔たっていようとも、私(法然)に親しいこととなります。それは私も南無阿弥陀仏ととなえているからです」(『御流罪の時門弟に示される御詞』)
このご法語は法然上人が四国に流罪になる時、別れを嘆いた九条兼実に語ったお言葉です。この「極楽浄土ですぐ会える」という教えにどれだけの人々が励まされ、心の支えとなってきたことか。私もその一人です。
「ありがとう」
13年前、母はそう言い残して亡くなりました。本来言われたらうれしい言葉のはずなのに、その時はとてもつらく、苦しいものに思えました。その言葉にはどういった意味が込められていたのか、その時はまだ冷静に考えることができませんでした。
きっと心の中では、大切な人たちと離れたくない気持ち、不安な気持ちで溢れていたことと思いますが、感謝の言葉だけを残してくれました。それは私たち子どもに心配かけまいという親心だったのかもしれません。
それに気づいた時、改めて母の偉大さ、温かさを感じ、その場では母のそうした思いをすぐにくみ取ることができず、「ありがとう」と送り出せなかったことを後悔しました。この世では伝えることができませんでしたが、私たちにはその言葉、思いを伝える場所があります。それが極楽浄土です。
冒頭のお言葉のとおり、法然上人はこの世での別れは永遠の別れではなく、「ひと時の悲しみ」とおっしゃいました。愛する人との再会を願わずにはいられない私たちにとって、それがどれだけ心強いことか。いずれ私たちも臨終を迎え、そして阿弥陀さまによって極楽浄土に導かれ、そこで再会を果たすことができます。そのために「南無阿弥陀仏」とおとなえしましょう、と法然上人はお示しになられたのです。
いつかまた極楽浄土で母と再会できたら、まずはあの時に言えなかった言葉を伝えたいです。「ありがとう、お母さん」   
(島根県松江市 善導寺 本田哲平)