2023年5月:ゆっくり休んでまた動き出す
この季節の陽気の中にいるだけで、なんとも心地良く、自然と幸せな気持ちになります。コロナ禍で遠出を控え、我慢して過ごされてきた方の中には、今度こそはこの行楽の時期を楽しもうと計画されている方が多いのではないでしょうか。
私たちが日々の生活、仕事に勉強、家事に育児…、それぞれが懸命に、精進の心持ちで過ごすのはとても大切なことですが、それと同様にしっかりと休養するということもまた、生きる上で大切であると思います。
あるお檀家さんが、ご家族おそろいでお寺に来られたときのこと、娘さんに近況をお聞きすると「今、大切な仕事を任されて毎日頑張っています。ゆっくり休んでいる暇もありません。頑張らないと、頑張らないと…」と、まるで自分に言い聞かせているように話してくれました。
「頑張らないと」と話すその表情は、笑顔の中にも、どこか落ち着かない様子でした。ご家族にお話を聞くと、思い詰めている様子を心配して、気分転換も兼ねてお寺にお参りくださったそうで、私はお釈迦さまが説かれた「琴の絃」の喩えを思い出しました。
お釈迦さまのお弟子にソーナという大変に熱心に修行をされた僧侶がおりした。ソーナは休むことなく、まさに血が滲むような修行をされていたのですが、それでもさとりを得ることができず、ついには修行を諦めようと思い悩むほどでした。その苦悩を見抜いたお釈迦さまは、彼が琴の名手であったことから、「琴の絃は強く張り過ぎず、また緩めすぎもしない時にこそ、良い音が出るだろう」と説かれました。その助言にソーナは、自らの姿勢を省みて再び修行に励み、ついにさとりを得られたというのです。
お檀家の娘さんも自身が思い詰めていたことに気づき、生活を改めると気持ちが軽くなり、仕事も順調にいったそうです。その様子をお聞きし、あらためて心の緩急の大切さを感じました。
お釈迦さまの説かれた、絶妙なバランスを保った心境。日々の出来事に流されがちな私たちだからこそ、目指すべき境地であるように思います。コロナ禍も落ち着きつつあるなか、日常を取り戻そうと気持ちは急ぎますが、そんな時にこそ一日・一瞬の大切さを念じつつ動き出してまいりましょう。
(宮崎県宮崎市 自然寺 尾関快照)