信仰を通じて希望を託す場に 被災者がつながるサロン 開設 金沢市・大蓮寺
金沢市にある大蓮寺(髙島訓堂住職)が、能登半島地震で被災した石川県輪島市の法蔵寺(同住職が兼務住職を務める)の檀信徒らを支えようと、大蓮寺でサロンを毎月開催、被災して困難な生活を続ける人たちが避難先から集い、交流する心の拠り所となっている。
400年の歴史を持つ法蔵寺は漁村の中心部に位置し、檀信徒のほとんどが漁業関係者。信心深く、事あるごとに寺で茶飲み話をし、行事法要や回忌法要も盛んだった。だが震災で本堂、庫裏が全壊。檀信徒にも犠牲者が出、家を失い、海岸の隆起で出漁もできなくなった。
地域のつながりがバラバラになった惨状に心を痛めた髙島住職と寺族の怜美さんらは「何とかしないと」と話し合い、法蔵寺から救出した本尊・阿弥陀如来坐像を大蓮寺に避難させたのを機に、その前に集まって共に法要を勤め、談話できる場をと、3月にサロンを始めた。
檀信徒からは「皆の顔を見られて良かった」との喜びの声が聞かれ、各家で壊れた仏壇から持ち出した仏像も20体近く預かり、年忌法要や避難先で亡くなった檀信徒の葬儀も営んでいる。
10月に開かれたサロンでは、輪島市の仮設住宅などから2時間かけて来た檀信徒の男女20人余りが正午ごろから本堂に集り、早速よもやま話に花を咲かせた。
金沢などに一時転居中の人もおり、50代以上の男性が多い。多い日は数十人が参加するという。同月のサロンでは参加者全員で、抑揚をつけて長く伸ばす独特の「長念仏」をとなえ、哀愁ある節回しを見事に唱和した。茶話会では、打って変わって笑い声が巻き起こり、間近に迫る十夜法要の段取りを相談しながら冗談も。髙島住職は「皆さん気が強いのでいつもこう。苦しい胸の内は誰も同じだからあえて話さないのでしょう」と気遣った。
参加者の一人、三中豊吉さんは、「避難先を転々として仮設住宅に入ったが、漁再開の見通しも立たず、近所は知らない人ばかり。友人に会え、役所の情報なども教えてもらえるこの集いが嬉しい」と話す。話は来年の行事にまで及んで長引く。笑顔が絶えないこのサロンは、檀家が信仰を通じて心を一つにし、先に希望を託す大事な場だ。
髙島住職は「安らかにお念仏する人が一人でも増えるように寺は開かれていなければなりません。毎回楽しみに来てくれる方も多く、ずっと続けていきたい」と微笑んだ。(ジャーナリスト 北村敏泰)