令和5年6月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数167首

山口 小田村悠紀子

ネクタイの締め方祖父(じじ)に教わりて真っさらな靴の歩き始める

情景が目に見えるようだ。ほほえましく、特に下句がそれを更にリアルにしている。

標語 中西一朗

飛び越しの瞬時立ちたる尾の流れ馬は次なる障害へ駆く

テレビでの観戦でしょうか。二句、三句の捉え方はなかなかのもの、下句への流れも手馴れている。

青森 中田瑞穂

いつまでも繋がっていたい亡き友の携帯番号今も消せずに

なかなかの多作者、しかし出詠する際には十分に自選をし、数を絞って出して欲しい。それも良い勉強の一つです。

滋賀 大林等

満開の桜の下でひと休みグランドゴルフはわれを支えん

群馬 新井日出子

大地震トルコの旅を思い出し心ばかりの寄付金をする

大阪 津川トシノ

ーコードを見定め通すセルフレジ気楽でもあり寂しくもあり

愛知 横井真人

風雪に耐えて一花の白き花佇み見れば一人静や

福岡 小林文子

が逝き曜日ごとに来る人はなくパンジービオラを一人見るわれ

大分 小林繁

故郷の四方の景色を歌に詠み己が歌集のページに残す

神奈川 相田和子

メリンスの着物で半天縫ひくれし母の顕ちくる幾年経ても

埼玉 岸治巳

校庭の隅に佇む金次郎幾多の児童と別れを告げしや

京都 木瀬隆子

この絵柄われの何かを変えるかもレトログラスにビール溢れる

宮崎 髙平確子

子や孫に守られ米寿の旅をするニューヨーク観光つつが無く終る

標語 堀毛美代子

朝の会話のできぬ夫へのひとり言線香を立て命日過ごす

元歌の二句目「夫との」、五句目「気のすむ命日」であったところを直す。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数237句

埼玉 山本明

花吹雪生き物ゼロの博物館

博物館の外は花吹雪、中はひっそり。ふと作者は気づいたのです。ここには生き物が一つもいないと。標本の剥製などはすべて物体、もっと言えば死体。作者は思わず身震いをしました。

大阪 津川トシノ

下萌や写生に座る女学生

この五七五がまるで絵のよう。この欄で何度も言ってきましたが、「五七五の言葉の絵」という一面が俳句にはあります。自分の感動や思いを絵にして表現する、それが俳句です。

兵庫 堀毛美代子

雲雀野を風と歩いているだけよ

「雲雀野を風と歩いている」ようすが一幅の絵のようです。その絵が作者の楽しい気分を十分に伝えます。作者は満ち足りています。いいなあ。

富山 山澤美栄子

枝垂梅たまには空を仰ぎたい

愛知 吉田喜良

春昼や散歩の途中長話

京都 根来美知代

燕孵化出入禁止の表門

佐賀 織田尚子

セーラーの万年筆の春の色

青森 井戸房枝

まだ覚めぬ町を歩くや花辛夷

東京 松井なつめ

寺院には枝垂桜がよく似合う

東京 中鉢和弘

生きてゆく桜の下の九品仏

長野 出澤悦子

お中日蟻が蟻引く寺の道

和歌山 福井浄堂

砂浜にバク転をして春の空

岩手 佐々木敦子

光る自転車隊のヘルメット

青森 中田瑞穂

春や後ろ歩きに俯瞰する

東京 津田隆

啓蟄や朝の一歩は軽やかに

神奈川 上田彩子

立ち飲みの女は春の旅衣

東京 山崎洋子

なんにでも七味ふる夫青嵐

大阪 岡崎勲

鉛筆で雑に中身の種袋

静岡 伊藤俊雄

子は歩き犬は抱っこの花見かな

大阪 林孝夫

春一番ほうれん草が寝てしまう

秋田 保泉良隆

頬杖のこくりと外れ春炬燵

愛媛 千葉城圓

日本酒や木の芽田楽海の音

原句は「木の芽田楽酒旨し」だった。「酒旨し」を風景として表現するために「海の音」にした。作者は島に住んでいる。