令和6年6月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数140首

京都 神居義之

校門に入学式と書かれおり朝の散歩の歩のやや弾む

なにげない一首でありながら、「あっもうそんな季節なんだ」、 という作者の思いが直に伝わる。

群馬 新井日出子

寒さ越え河津桜に手触れつつ退院のわれの軽き足どり

作者の退院の喜びが一首からあふれる。寒さを乗り越えて咲く桜とわが身が自ずと軽き足どりになる。

東京 蚫谷定幸

亡父は海人われは比丘なり不思議な縁に生かされており

比丘は仏門に帰依して具足戒を受けた男子と辞書にある。下句に作者の実感が込められる。

京都 赤尾智子

春彼岸朝日に輝く本堂で西方浄土を想いて拝む

神奈川 相田和子

亡き夫の静まる部屋にも豆撒けば差し入る月光に面影の顕つ

青森 井戸房枝

老いゆきて呆けた自覚はなけれどもオレオレ電話に呆けてみせたり

群馬 伊藤伊勢雄

春来れば切干し作りが手始めで今日も二人で大根を突く

福岡 上野明

大宰府のいつもの喫茶店でランチをし季節を語り時を過ごせり

神奈川 内田陽子

秀逸の新聞の短歌切り取りて学びにせよと息子優しき

大阪 大貫尚子

転がりし薬一錠耳で追いては指に摘まめる事の幸せ

奈良 川本惠子

歌舞伎見る謡いのかげに役者ありあっぱれ海老蔵観進帳の

富山 岡本三由紀

上手くなれ白くなれよと足袋洗う足らざる芸のわが身もどかし

長崎 片岡忠彦

西海路海の青さと磯の香と子等に追されて天守へ急ぐ

東京 田中恭子

ちちははのお寺お墓を頼み置き今ぞ唱ふる弥陀の名号

東京 鈴木まさ子

いつ咲くの私の気持わかるかなこう問うてみる寒椿の花に

元歌の四句目「蕾ふくらむ」であった。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数217句

大分 吾亦紅

一片の春の雲行く御影堂

知恩院御影堂の春の風景。「一片の春の雲」がいいなあ。なんだか胸が広くなる風景だ。

東京 山崎洋子

父に聞く母の青春紫木蓮

父母の恋(恋バナ) を聞いたのだろう。紫木蓮がその恋バナの魅力を感じさせる。

石川 山畑洋二

花よりも団子といふてイタリアン

団子からイタリアンへの飛躍がおかしく楽しい。うまかっただろうなあ、もちろんワインも。

青森 井戸房枝

ひやひやと空のありけり木の芽道

福岡 伊熊悦子

腰痛にちちんぷいぷい万愚節

福岡 伊熊朋則

終着の過疎のバス停初桜

埼玉 東咲江

蒲公英や喋り上手の児になりて

大分 小俣千代美

助手席の相槌欲しや花万朶

大分 小林客愁

晩酌は一合五勺山笑う

滋賀 小早川悦子

新玉葱レシピ考案十品目

長野 出澤悦子

居酒屋の茶碗蒸しには蕗の薹

大阪 津川トシノ

猫目線スギナの森に蝶が飛ぶ

奈良 畷崇子

辛夷咲く沈む心に灯ともす

大阪 原田勝広

春コートちょいと引っ掛け大通り

千葉 百野●子 ●はネに乍

御忌法要舞楽きはだつ増上寺

長崎 平田照子

春一番旅に眠れぬ夜を過ごし

和歌山 福井浄堂

麗かやバイク野郎の集ふ朝

東京 蚫谷定幸

写生する手に載り来たる春の蟻

神奈川 上田彩子

山笑う分断されし信越線

静岡 太田輝彦

活造り鯵の瞳の澄みにけり

山口 沖村去水

三月や青を仰いで見るばかり

京都 神居義之

校門に入学の文字散歩道

青森 中田瑞穂

春風や時々竹刀振る気配

山梨 山下ひろ子

大丈夫日本の空に燕来る

長崎 吉田耕一

棟上げの気合が揃い鯉のぼり

福岡 古野ふじの

ダム湖への峠に仰ぐ山ざくら

京都 孝橋正子

頬よせる新芽のふわわ雪柳

原句は「雪柳の新芽ふわわ頬よせる」だった。語順を変えて「頬よせる」しぐさを際立たせた。