令和6年7月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数128首

京都 神居義之

花菖蒲ところどころに咲きいでて昨夜の雨に光る境内

自ずと情景の見える一首で、境内の花菖蒲の咲き初めたよろこびが伝わる。下句が生きている。

京都 根来美知代

祖母宅を訪う楽しみの一つなり助走をつけてソファに飛び乗る

思わず笑ってしまった。目に見えるような生き生きとした一首。祖母の家であればこそ出来ること。

長崎 吉田耕一

蕾には今年の夢を入れているトマトの花がチラチラ光る

生産者なのでしょうか。上句がいい、実感がそのまま伝わる。結句はなにげない表現ながら喜びも。

群馬 新井日出子

黄泉の国へ九十二才の姉送る願いを書きて折鶴を折る

福岡 上野明

東の山の峰々太陽が昇り紅の雲の美し

愛知 大貫尚子

朝夕に打つリンふたつご先祖と遠地に学ぶ孫を思いて

山口 小田村悠紀子

体調を崩した友の家の前明かり見届け続ける散歩

滋賀 奥田壽英

春風とやさしい笑顔のいぬふぐりそっと一輪ノートに挿む

福岡 古賀悦子

憂きことの多きこの身も共生の月かげの歌心にともし

大阪 津川トシノ

枕元に美術全集積み上げて平八郎の「さざなみ」を抱く

愛知 横井真人

降誕会釈迦牟尼像に甘茶かけ出生数の増加を祈る

埼玉 塚﨑孝蔵

孫たちに負けじとばかり一万歩膝の痛みを堪えつつ進む

青森 中田瑞穂

旋律を忘れし指に寄り添うてメトロノームは柔らかに揺るるや

愛知 三澤貞子

わが曽孫元気に遊ぶその姿母親に似て見ていて楽し

初句「曽孫」を「わが曽孫」に、四句目「その母に」を「母親に似て」とする

俳壇
坪内稔典 選 投句総数201句

福岡 伊熊悦子

うぐひすの調子づきたる午前九時

「朝九時の哲学講座枇杷熟れる」は句集『リスボンの窓』にあるボクの句です。うぐいすの午前九時は音楽の時間でしょうか。

滋賀 小早川悦子

読み書きはいつも台所窓若葉

「台所」はダイドコと読みます。かつてダイドコは女の城でしたね。ボクはこの句から割烹着の母を連想しました。

石川 山畑洋二

恐竜に迎えられたる街薄暑

恐竜博物館のある福井県勝山市の薄暑でしょうか。恐竜も汗ばんでいるかも。

大分 小林客愁

真夏日や吾子にホースの水を撃つ

福岡 上野 明

畝々に大根ジャガイモ青々と

大阪 津川トシノ

ポックリを願う神社や梅雨晴間

大阪 原田勝広

新緑やノックバットとグローブと

東京 中鉢和弘

春風や散髪したる伊達男

福岡 古野ふじの

里山のモザイクめきの椎の花

兵庫 堀毛美代子

初燕いつ揺れるともしれぬ国

埼玉 山本 明

泳ぎ出す魚はフィギュア春愁い

大分 吉田伸子

ばらの香や角を曲がれば寺に着く

アメリカ 生地公男

御詠歌の染み入る寺院桜舞う

神奈川 上田彩子

大観覧車てっぺんに来て春惜しむ

秋田 高橋さや薫

花屑や携帯見つめる女一人

東京 津田 隆

緑陰を風はサラッと通り抜け

青森 中田瑞穂

一服の茶の薄緑梅雨来たる

奈良 中村宗一

おにぎりを忘れてしまう蕨採り

青森 吉田 敦

差し入れの冷し中華や旅終る

東京 松井なつめ

弟よ桜咲いたよ三回忌

原句は「明日三回忌」だったが、 「明日」を 読者 が弟に対する親しみをよく伝える