令和6年9月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数116首

埼玉 岸治巳

街中で歩きスマホに接触し持たない私が頭を下げる

このようなことに出会ってもなかなか一首にはできない。この瞬間を一首におさめ得たのはさすがだ。短詩型が身についているのでしょう。

富山 岡本三由紀

菩提寺に咲く大賀ハスみ佛の大き掌の中その白愛し

三句目、四句目がいい、菩提寺の大賀ハスは作者にとって、特別の感慨があるのでしょう。 「大賀ハス」が目の前にたちあらわれるようだ。

埼玉 塚﨑孝蔵

最上川流るる水に龍を書く静かにうねり臥龍の波紋

雄大な景観、その最上川の流れに一文字の「龍」。今年にふさわしい一首。作者はこの年に大いなる期待をこめたのではないでしょうか。

大阪 津村仁美

町中のホームの花壇に紋白蝶シニアの喜びどこで知ったの

京都 荻野浩

写経会の宗祖の教え起請文なぞる筆先に思いを込める

奈良 川本惠子

遠き日に母に連れられ地蔵盆にその思い出は綿菓子のごと

栃木 小峰新平

あと幾年この木の手入れができるかと少し離れて古木見上げる

大分 小林繁

争乱の地にこそ届け晶子の詩賢治の呟き雨ニモマケズ

宮崎 髙平確子

ミニトマト初収穫し味をみる甘さが決めて我流のよしあし

岡山 矢川忠彦

プールより声の弾ける小学生令和を担う強さを感ず

滋賀 森嶋直子

御詠歌を唱え終え仰ぐ高野槙樹齢千二百年湖北の御寺

大阪 林孝夫

東京の娘に自作のトマト送るこれを食べたら元気になるよ

長崎 片岡忠彦

木漏れ日や社の教室の園児らに偶然出会い付き添われ帰る

元歌上句は「社の教室園児らの」であった。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数191句

佐賀 織田尚子

六十年名前はオイで田植だよ

おかしい。でも、とっても仲良く田植えしている感じ。いいなあ。

大阪 西岡正春

沢蟹やまもなく線状降水帯

沢蟹はどうするか、ちょっと心配だ。「線状降水帯」という新しい言葉をうまく使った。

和歌山 福井浄堂

ふるさとの同窓会やゆすらうめ

ゆすらうめに郷愁を感じる世代がある。70歳以上だろう。そろそろ同窓会じまいかなあ。

福岡 伊熊朋則

片陰や少し間を置く停止線

福岡 上野明

パレット積み苺豊作あちこちに

大分 小俣千代美

軒燕整列吾も答礼す

滋賀 野口直子

あん蜜のあんこ増やして光る匙

大阪 原田勝広

青梅雨やビニール傘も萌黄色

東京 松井なつめ

茄子焼にグリルからでた爆発音

兵庫 堀毛美代子

とびとびに刈り残りたる夏薊

大阪 森敏記

廃校の知らせやこぼる天の川

滋賀 山本祥三

妻留守でも何か菓子ある冷蔵庫

静岡 太田輝彦

父の日や宅配便の届く昼

大阪 岡崎勲

妹がいつも的なり水鉄砲

京都 神居義之

ややあつて思ひ出したり金魚草

東京 津田隆

梅雨晴間ベランダ毎の傘の花

青森 中田瑞穂

逸材は自然体なり梅雨晴れ間

大阪 永田真隆

アスファルト黒光りして梅雨晴間

奈良 中村宗一

塩飴が売れるはずだよこの猛暑

京都 根来美知代

始業式喋り通しの日焼けの子

大阪 林孝夫

梅雨の朝うぐいす四度庭で鳴く

大阪 光平朝乃

播州の山はぐるりと晩夏かな

東京 山崎洋子

足場より大工の散らす百日紅

山梨 山下ひろ子

三姉妹母の手縫いの初浴衣

大阪 越野和美

目立たない線香花火好きやねん

長崎 平田照子

アマリリス待合室を灯しけり

岩手 小野寺満

凌霄花ひらりと落ちる吾ひとり

リズムを整えた。原句は「ひらりと落つ吾ひとりなり」だった。