令和6年10月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数99首

秋田 小川慶子

蛇口から溢れる水に被災地の暮しを想い山菜洗う

作者のやさしさが直に伝わる。山菜を洗いながらも被災地の人々への暮しを想うひととき。

栃木 小峰新平

猛暑日に畑の野菜が訴える喉が渇いた水が飲みたい

野菜の気持ちになって一首を詠む。それ程にこの夏の猛暑は耐えがたくそして長い。

宮城 西川一近

孫達の太鼓打つ音の境内に響きて宵の夏祭り始まる

夏祭りが始まり、太鼓の音が響いてくる。その太鼓はお孫さんが叩く、一入の喜び伝わる。

大阪 山本珠貴

ナムナムと副住職の真似をする紅葉のおててみんな笑顔に

大分 吉田伸子

ジューサーにかけたるトマト匂いたり独りの吾の朝餉に添えて

京都 神居義之

猛暑日や植木職人の鋏の音冷房の部屋でありがたく聞く

神奈川 上田彩子

最北の街に鰊の歴史あり底曳船は五隻となりぬ

青森 中田瑞穂

服薬のために強いて口にする食事に添える塩辛き梅を

奈良 中村宗一

名神と新幹線のドクターカー運が良かったスマホに収める

大阪 林孝夫

暑いから畑に行かぬと決めたけど野菜のことが心配になる

京都 根来美知代

帝陵の在り処を聞けば中学生いきいきとして我を導く

長崎 吉田耕一

今日からは一層妻を労るとニコニコ顔で友は退院す

群馬 新井日出子

娘の子イギリスに行き一年間留学の無事を祈る毎日

大阪 津川トシノ

カーナビが右だ左と指示をする人生ナビは自分で作る

元歌は「指示をする」であったが「指示する」にした。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数211句

京都 岡田直子

カプチーノ夏は濃くして二杯飲む

いい句調です。カプチーノがうまそう。元気が出そう。ボクはインスタントドリップコーヒーのモカを三杯くらい飲んでいます。

神奈川 上田彩子

長編を読破大暑の日の終わる

「無事終わった。よかった!」という感じですね。長編のタイトル、たとえば「夜明け前」などと示すと、句はさらによくなりますよ。

秋田 高橋さや薫

緑陰に寝転び地球が動き出す

この句もいい気分ですね。緑陰に寝転んで地球と一体化しています。季語の緑陰が効果的です。

栃木 伊藤和子

女子会は昭和レトロの夏座敷

福岡 伊熊朋則

夏帽子取りて名前を聞き直す

広島 河野昭三郎

鳴き終えて路傍に転がる油蝉

滋賀 小早川悦子

大採れの胡瓜配りて長話

長野 出澤悦子

スマホがね熱中症に罹ったとよ

大阪 津川トシノ

月を見るときだけ登る歩道橋

大阪 原田勝広

砂利船や運河波立つ大夕焼

東京 西谷富士子

空涼し腹式呼吸して散歩

和歌山 福井浄堂

炎天や廃寺の瓦黒光り

三重 森陽子

まな板の西瓜や固唾呑む昭和

富山 山澤美栄子

角刈りは父とお揃ひ祭デビュー

大分 吉田伸子

道の駅一つ贖う地のスイカ

山口 沖村去水

天高し秋は空からやって来る

京都 神居義之

風吹いて空蝉カラと転げたり

埼玉 塚﨑孝蔵

ブルーベリー食べ頃はいつ鳥と我

青森 中田瑞穂

立秋やすべての窓を開け放す

大阪 光平朝乃

帆船は総帆展帆夜の秋

愛知 山崎圭子

幽霊に因む寺伝も曝さるる

東京 山崎洋子

マトリョーシカは器量で選ぶ夏休み

奈良 中村宗一

畦道に蝗や飛蝗飛び回り

青森 吉田敦

蜩や曇りの空のひび割れて

石川 山畑洋二

立秋の光束ねて富山湾

原句は「潟光る」でした。それを富山湾と具体化しました。シンプルに明確な風景を作る、これが句の大事なポイントです。