令和6年11月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数106首

宮城 西川一近

二年目の夏の修行に発つ孫を妻と見送る朝の早くに

情景が目に見えるようだ。将来は寺を継いでくれるその期待や安堵感などさまざまな思いが交錯する。

東京 蚫谷定幸

朝一で脱出すれば昼過ぎにふるさとに着く良き時代なり

この一首に共感する人は多いのではないでしょうか。夜行で長時間かけて翌日の昼頃着いた頃のことなどが思い出される。

青森 中田瑞穂

駅ビルの小さなショップが閉店す心の支えがまた消えてゆく

作者は「小さなショップ」にかぎりなく愛着があったようだ。この一首に共感する人も多いはず。

奈良 中村宗一

ホームラン盗塁決めても奢らないいつも控えめな大谷翔平

京都 根来美知代

帝陵を繋ぐ嵯峨野の紅葉径野菜の無人販売しきり

和歌山 宮本博信

細々と続ける喜び地蔵盆消してはならぬと草場より声が

熊本 森 直美

晴天を映す田圃に背を伸ばす小さな稲の可愛らしさよ

長崎 吉田耕一

物欲がなくて歩幅も狭くなる猛暑が攻める八十路の坂を

富山 山澤美栄子

嬉しくて誰にお礼を言えばいい六年ぶりの夕顔に問う

京都 観山哲州

自分らしくスイングすればそれで良したとえヒットは打てなくても良い

愛知 横井真人

連日の猛暑いとはず夏水仙眺める程に気分爽やか

福岡 古賀悦子

ふる里は村から町へそして市にされど生たつき活に車は不可欠

群馬 伊藤伊勢雄

友人は電車機関車作る人われは畑で野菜一筋

京都 岡田直子

壁にひとつ蝉の抜け殻がついているオブジェのごとく光を放つ

三句目「抜け殻」結句「光放ちて」を直す。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数207句

福岡 伊熊悦子

団塊の兄の一徹秋刀魚焼く

一徹な兄はもしかしたら炭火を起こして秋刀魚を焼くのかも。そして、たとえばスダチをきゅっと絞って振りかける。もちろん、酒がうまい。

滋賀 小早川悦子

農具庫は夫の手作り秋の雲

手作りのやや不格好の小屋が目に浮かぶ。その小屋の上空には淡い雲が広がっている。水彩画のようなその風景、なんとも快い。

東京 山崎洋子

居待月つぎ足している白ワイン

俳句は「五七五の言葉」の絵になったとき秀句になります。この句はその例です。ワインを実にうまそうに飲んでいるようすが目に浮かびます。

佐賀 織田尚子

台風と猛暑に地震我米寿

広島 河野昭三郎

潮引きて干潟に広がる蟹の穴

長崎 片岡忠彦

銀杏散る古木撮る人描く人

長野 出澤悦子

青葡萄不揃ひながら納得す

大阪 津川トシノ

終戦の年もこんなと虫時雨

長崎 平田照子

月代やチロチロチロと虫の声

兵庫 堀毛美代子

夕焼を衣にうつし歩みをり

京都 観山哲州

毘沙門天力む腕にヤモリかな

愛知 矢田一子

どんぐりのころころ地球まあるくて

長野 山﨑久美子

廃線の峠の駅や蝉しぐれ

静岡 太田輝彦

蜩や暮れゆく杜の散歩道

岩手 小野寺満

中学の校歌の碑あり赤蜻蛉

埼玉 塚﨑孝蔵

老い忘れ筋トレ終りアイス食べ

東京 津田 隆

肩のこぶ笑顔で自慢秋祭

青森 中田瑞穂

秋空よオカリナは肝臓のよう

京都 根来美知代

ご奉仕の小ぶりの熊手紅葉寺

大阪 光平朝乃

遠花火音をたよりに歩きけり

愛知 山崎圭子

寺と寺繋ぐ小径や草の花

山梨 山下ひろ子

待たせたね咲くのはここね百日紅

埼玉 山崎和恵

満月はどこに左折の真正面

茨城 齊藤 弘

冷し麺妻と語るよ脚の老い

長崎 吉田耕一

明けきらぬ散歩は海辺涼新た

「散歩楽しむ」を「散歩は海辺」と散歩を具体化した。言葉の絵に近づいたはず。