令和6年12月
歌壇
栃木 小峰新平
ちゃんと来た秋に感謝し茹で栗を日の入る部屋で妻と味わう
評
初句は素直な作者の実感、猛暑の続くなかでは誰もが秋の訪れは無理と思ったことでしょう。
大阪 津川トシノ
通帳の丸が一桁足りません贅沢は敵と戦争のごとし
評
この一首も作者の素直な実感。遠くさかのぼってその時代のことがしみじみと思われたのでしょう。
広島 山本玲子
老の身を祝いてもらゐしわれも又白寿の先輩言祝ぎにけり
評
長命の時代になり、お互いにねぎらいつつ、更なる長寿をめざしましょう。
東京 蚫谷定幸
小湊に漁船の数は少なくて漁する者の減りゆくと聞く
大阪 安藤知明
百年となればまだある命なり朝四千歩夕三千歩
愛知 三澤貞子
部屋の前シマトネリコは青あおと小鳥らの集う憩いの所
神奈川 上田彩子
錦秋の奥出雲ゆく気動車は古事記由来の観光列車
山口 沖村宏明
老いらくの恋の告白恥ずかしく今夜の月はきれいですねと
京都 神居義之
西日射す九月初めの境内は松の木陰にそよ風吹きたり
群馬 伊藤伊勢雄
孫三人じいちゃんばあちゃんおめでとう花籠持って敬老の朝
埼玉 山本 明
秋の田を美しと見たるまたの日はたちまち刈田となりにけるかも
京都 根来美知代
めちゃ甘いめちゃ柔らかいと盛りあがるグループ見れば同世代らし
大阪 林 孝夫
猛暑日は畑に行けずにこの夏は野菜の世話がほとんど出来ず
長崎 片岡忠彦
暮れの鐘無事に過ごせしひととせや迎える年も家族の健康を
青森 中田瑞穂
七千歩のウォーキングにじんわりと疲労感あり眠気催す
評
原作の三句目「しっとり」を直す。
俳壇
静岡 太田輝彦
津波跡標す石碑や彼岸花
評
風景がとても鮮明。五七五の言葉の絵になったとき、しばしば秀句が生まれます。この句のように。
愛知 山崎圭子
金鯱を挙げ一碧の空高し
評
名古屋城ですね。真っ青な空の金鯱が目に浮かびます。空が金鯱を操っている感じです。
東京 山崎洋子
泣くなよと助手席に居る松ぼくり
評
誰かと別れた後でしょうか。助手席の松ぼっくりが声を掛けてくれたのです。こんなふうに松ぼっくりと心が通じる人って、なんだかいいなあ。やさしくて強い人だ、と感じられます。
福岡 伊熊悦子
島言葉の搭乗案内秋うらら
福岡 伊熊朋則
蒼残る新藁刻むコンバイン
埼玉 東 咲江
秋風やシフォンケーキの焼き上がり
京都 孝橋正子
蜘蛛の糸上下に揺らす子どもかな
滋賀 小早川悦子
大壺に紫苑ざっくり洋菓子屋
大阪 津川トシノ
紅葉谷手をメガホンにヤッホッホー
大阪 原田勝広
秋風や鎮守の杜の秘密基地
兵庫 堀毛美代子
雲の下雲流れゆく芒原
福岡 古野ふじの
其処此処の窓より仰ぐ十三夜
東京 宮﨑昌彦
病みし友パジャマの肩に赤トンボ
富山 山澤美栄子
秋夕焼北斎は如何に富山湾
滋賀 山本祥三
晩秋や我晩学に句と生きる
佐賀 織田尚子
振り返る人なし我も敗荷も
静岡 伊藤俊雄
睡魔呼ぶ文鳥の声夏座敷
神奈川 上田彩子
快走のスーパーはくと稲穂波
広島 河野昭三郎
瀬戸内の風に群れ飛ぶ赤蜻蛉
青森 中田瑞穂
何事も喜劇だよ友神無月
大阪 光平朝乃
富有柿上手に箱に並びたり
山口 沖村去水
おい俺はここで鳴くぞと庭の虫
評
原句は「秋の虫」だった。虫は秋の季語なので、秋を取って場所を明確にしました