令和7年7月
歌壇
京都 荻野 浩
人の世の悲喜交々を見守りつ想い出残し散る桜花
評
淡々とうたいながらも桜への想いが篤い。年を重ねる毎に、桜への思いは悲喜交の受け止めである。
埼玉 岸 治巳
父母の齢を越えて幾年月未知の世界を歩むがごとし
評
この一首に出会い同感する人が多いのではないでしょうか。下句には作者の実感が籠っている。
京都 後藤喜美子
一輪の都忘れに目が止まり写経を始め見方が変わる
評
下句の「写経を始め見方が変わる」に注目。どんな風に見方が変わったのでしょう。実はそれも連作として詠み終えて欲しかった。
大分 小林 繁
何処より流れ来たるか大木の浜に横いふすがた寂しき
栃木 小峰新平
代を掻くトラクターの後を行き餌探しをする馴れたシラサギ
京都 観山哲州
綿毛ひとつ蜘蛛の網にてからめられ風に吹かれて 踊っておりぬ
岡山 谷川香代子
替わる日に後追いかけて折鶴を手渡しくれし人を偲びぬ
大阪 津村仁美
週一の買物時間に間に合った一本桜スーパーの花見
奈良 出口照子
「にんべん」に夢と書いて儚いと気持落ちこむも まあるく生きる
大阪 吉田エミ子
お金って大切だよね二番目に一番ならば幸せ逃げる
東京 蚫谷定幸
駅名に江戸の名残を聞きながら半蔵門線を西に行きます
埼玉 石村和子
ピカピカのランドセル並ぶ踏切前ボランティアさんと笑顔で挨拶
神奈川 上田彩子
現代のれんげ畑は貴重なりれんげ祭に市民の集う
福岡 榎田裕一
九十路脚力低下のもどかしさジョギング自慢は今はいずこに
評
添削 元歌の結句は「今どこに」であったが、「今はいずこに」に改めた。
俳壇
群馬 木村住子
三枚で足る青紫蘇を束で買ふ
評
たしかにこんなことがありますね。でも、この贅沢感が三枚の葉を引き立てます。ボクには「青紫蘇と律儀な彼がやってきた」という句があります。
滋賀 小早川悦子
豌豆の筋取る悩みほどけゆく
評
ボク、豌豆の筋取りが得意です。子どものころ、母におだてられてよく筋取りをしたのです。で、八十代になった今も妻を手伝って筋取りをします。
石川 山畑洋二
若葉雨止みて白山立ち上がる
評
近景の雨に濡れた瑞々しい若葉が遠景の白山を引き立てています。いい風景です。
福岡 伊熊朋則
軽トラの荷台に灯油花の冷え
群馬 長田靖代
新緑を見て下さいと雨上がる
奈良 上田荷香
鴛鴦の池あたりで万歩風五月
佐賀 織田尚子
冬野菜ストック十種土の中
岩手 佐々木敦子
改装の足場の仮設若葉風
大分 野尻ヒトミ
新緑のトンネル抜けて道の駅
岩手 福井浄堂
本山の襖絵眺む花曇
埼玉 三好あきを
十薬引き赤城の子守唄うたひ
福岡 稲永順士
麦秋の金の波間に我が家かな
神奈川 上田彩子
乗り鉄の花見は車窓津々浦々
京都 神居義之
芍薬のきりりと庭を支配せり
東京 小室清恵
若布干す傍ら腹を舐める猫
長野 出澤悦子
たらの芽の自己流レシピ納得す
青森 中田瑞穂
バス停の二つ先まで夏来たる
神奈川 中村道子
花びらが全部落ちてもチューリップ
大阪 光平朝乃
金鳳花目指すは一日六千歩
愛知 山崎圭子
抱へられ撫でられ羊毛を刈られ
東京 山崎洋子
薫風や舌に転がす薄荷飴
山梨 山下ひろ子
黄昏やエリザベスてふ薔薇の咲く
埼玉 東 咲江
炊き立ての飯に釘煮や風薫る
長崎 片岡忠彦
無人売りキャベツの二つ比べ見る
評
添削「キャベツを」が原句。「の」にするとキャベツが急に丸々として瑞々しくなりませんか。音読すると「の」の働きがよく分かるかも。