令和7年8月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数142首

神奈川 小笠原嗣朗

真夜目覚め遠き思い出楽しみぬ朝まで保たぬを半ば知りつつ

この様な場面を一首に為し得たことに驚く。下句の何とも醒めた思いが興味をもたらす。

岩手 小野寺満

記録より記憶に残る人がいい君に残そう出会いの記憶

なかなかユニークな一首で、下句が上句を受けて説得力がある。

京都 岡田直子

折鶴は世界の空を飛ぶという愛と平和の願いをこめて

この一首の他に「埴輪あり何かゾワゾワかきたてる縄文の血がさわぎ出すらし」があった。内心をストレートに表出したところが良かった。

埼玉 川田芳章

昭和百年記念の年に卆寿の叔母今朝も五時起きウォーキングに

埼玉 塚﨑孝蔵

ふるさとの墓碑みつめて代々の老いたればこそ思いおこさる

青森 中田瑞穂

前奏が軽快な輪舞曲に変りホールの空気が軽やかに動く

奈良 中村宗一

六十年一緒に暮らした仲だもの忘れられない母の命日

京都 根来美知代

伸びやかなポプラの欠伸の休暇明け昼の公園に幼子戻る

愛知 真野 昭

今朝もまた東の空が窓照らし眠れぬままに一夜が 明ける

滋賀 今村圭吾

小満に君の紫燕子花橋の欄干月影の盃

埼玉 山本 明

雨音に妨げられし夢なれど足は自在に植田へ急ぐ

三重 本城美喜子

新緑に山藤咲くや吉野山綺麗やねってしばし眺むる

奈良 川本惠子

傘寿過ぎ自分に誓う言葉あり人には負けて己に勝てと

青森 鳥谷部学

裏返し表も返し裏返しホットケーキは仏のケーキ

添削 一首として直すところはなかったが「うらがえし」「おもてかえし」を漢字に直した。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数290句

愛媛 千葉城圓

甚平が孫と揃ひで街を行く

城圓さん、久しぶりの登場です。かっこうのよい甚平二人です。

大阪 原田勝広

緑さす犀の瞬きしょぼしょぼと

動物園のカバの近くにはたいてい犀がいます。それで、カバを見に行くたびに犀も見る習慣にボクはなりました。この句、しょぼしょぼの瞬きがおかしい。もっとも、犀が瞬くかどうか。でも、言葉の世界では瞬いてもOKです。楽しい句です。

神奈川 上田彩子

口笛の上手な人が好き立夏

快い句。口笛が聞こえてきそうです。

福岡 伊熊朋則

まだ青の残る杉玉夏燕

福岡 伊熊悦子

子燕や昼を報せる古時計

奈良 川本惠子

朝風呂でたまに贅沢髪洗う

大阪 越野和美

燕さんどこに行ったん忘れたん

大分 小林客愁

汝は賊か傍若無人春疾風

滋賀 小早川悦子

親子って好きな色似る夏の空

神奈川 里中 信

初ものと玉葱提げる家路かな

滋賀 山本祥三

父の日を誕生日とする我が息子

静岡 伊藤俊雄

老二人今年もけじめの新茶飲む

福岡 稲永順士

新茶あり残り飯さえ御馳走に

静岡 太田輝彦

歳時記にかすかなほこり麦の秋

京都 岡田直子

山笑ふ苦労の全て吹き飛ばし

山口 沖村去水

肩書を全て外して立夏かな

京都 神居義之

紫陽花のぼってりこぼれ地蔵堂

東京 小室清恵

欠伸する虎の喉見る薄暑かな

長野 出澤悦子

ガラス瓶へ真白き花の立夏かな

大阪 林 孝夫

川岸の葉桜眺め僕一人

静岡 松永信介

短夜の噂話のリフレイン

京都 観山哲州

ひねもすを揺り椅子で揺れ梅雨晴れ間

大阪 山崎有夏

紫陽花の咲く曲がり角君の影

東京 山崎洋子

風鈴や両隣からカレーの香

京都 観山ヒロクニ

夕薄暑任侠映画鼻アップ

添削「任侠映画面白し」が原句だった。面白さの一端を具体的に示した。