令和7年8月
歌壇
神奈川 小笠原嗣朗
真夜目覚め遠き思い出楽しみぬ朝まで保たぬを半ば知りつつ
評
この様な場面を一首に為し得たことに驚く。下句の何とも醒めた思いが興味をもたらす。
岩手 小野寺満
記録より記憶に残る人がいい君に残そう出会いの記憶
評
なかなかユニークな一首で、下句が上句を受けて説得力がある。
京都 岡田直子
折鶴は世界の空を飛ぶという愛と平和の願いをこめて
評
この一首の他に「埴輪あり何かゾワゾワかきたてる縄文の血がさわぎ出すらし」があった。内心をストレートに表出したところが良かった。
埼玉 川田芳章
昭和百年記念の年に卆寿の叔母今朝も五時起きウォーキングに
埼玉 塚﨑孝蔵
ふるさとの墓碑みつめて代々の老いたればこそ思いおこさる
青森 中田瑞穂
前奏が軽快な輪舞曲に変りホールの空気が軽やかに動く
奈良 中村宗一
六十年一緒に暮らした仲だもの忘れられない母の命日
京都 根来美知代
伸びやかなポプラの欠伸の休暇明け昼の公園に幼子戻る
愛知 真野 昭
今朝もまた東の空が窓照らし眠れぬままに一夜が 明ける
滋賀 今村圭吾
小満に君の紫燕子花橋の欄干月影の盃
埼玉 山本 明
雨音に妨げられし夢なれど足は自在に植田へ急ぐ
三重 本城美喜子
新緑に山藤咲くや吉野山綺麗やねってしばし眺むる
奈良 川本惠子
傘寿過ぎ自分に誓う言葉あり人には負けて己に勝てと
青森 鳥谷部学
裏返し表も返し裏返しホットケーキは仏のケーキ
評
添削 一首として直すところはなかったが「うらがえし」「おもてかえし」を漢字に直した。
俳壇
愛媛 千葉城圓
甚平が孫と揃ひで街を行く
評
城圓さん、久しぶりの登場です。かっこうのよい甚平二人です。
大阪 原田勝広
緑さす犀の瞬きしょぼしょぼと
評
動物園のカバの近くにはたいてい犀がいます。それで、カバを見に行くたびに犀も見る習慣にボクはなりました。この句、しょぼしょぼの瞬きがおかしい。もっとも、犀が瞬くかどうか。でも、言葉の世界では瞬いてもOKです。楽しい句です。
神奈川 上田彩子
口笛の上手な人が好き立夏
評
快い句。口笛が聞こえてきそうです。
福岡 伊熊朋則
まだ青の残る杉玉夏燕
福岡 伊熊悦子
子燕や昼を報せる古時計
奈良 川本惠子
朝風呂でたまに贅沢髪洗う
大阪 越野和美
燕さんどこに行ったん忘れたん
大分 小林客愁
汝は賊か傍若無人春疾風
滋賀 小早川悦子
親子って好きな色似る夏の空
神奈川 里中 信
初ものと玉葱提げる家路かな
滋賀 山本祥三
父の日を誕生日とする我が息子
静岡 伊藤俊雄
老二人今年もけじめの新茶飲む
福岡 稲永順士
新茶あり残り飯さえ御馳走に
静岡 太田輝彦
歳時記にかすかなほこり麦の秋
京都 岡田直子
山笑ふ苦労の全て吹き飛ばし
山口 沖村去水
肩書を全て外して立夏かな
京都 神居義之
紫陽花のぼってりこぼれ地蔵堂
東京 小室清恵
欠伸する虎の喉見る薄暑かな
長野 出澤悦子
ガラス瓶へ真白き花の立夏かな
大阪 林 孝夫
川岸の葉桜眺め僕一人
静岡 松永信介
短夜の噂話のリフレイン
京都 観山哲州
ひねもすを揺り椅子で揺れ梅雨晴れ間
大阪 山崎有夏
紫陽花の咲く曲がり角君の影
東京 山崎洋子
風鈴や両隣からカレーの香
京都 観山ヒロクニ
夕薄暑任侠映画鼻アップ
評
添削「任侠映画面白し」が原句だった。面白さの一端を具体的に示した。