令和7年10月
歌壇
奈良 中村宗一
孫ら来て八十四才の誕生会私の上に姉が三人
評
長寿のおめでたい一首にびっくり。姉上もお元気なのでしょうか。にぎやかな笑い声が聞こえてくるようだ
大阪 根来譲二
孫ひ孫並びて順に言葉述ぶ遺影はすこし緩びゆくごと
評
自ずと情景の見えてくる一首でほほえましい。それぞれがどんな挨拶をされたのでしょう。
青森 中田瑞穂
継続は力と学ぶ師の教え短歌との出会い尊かりけり
評
この一首に力をいただく。「継続」の教えは作者にとって何よりの力となることでしょう。
群馬 新井日出子
友と行くうさぎと亀の童謡館山林の中空気がおいしい
兵庫 足立宏美
熱帯夜眠れぬ夜に風鈴のかすかな音色に心癒され
滋賀 大林 等
かき氷を絵に描き孫にハガキ出すひと雨恋し部屋 に籠りたり
滋賀 奥田壽英
丸い月心に宿る窓あかり笑顔でいよう老々介護
滋賀 北川徳子
喘ぎつつ有馬の坂に老い二人寒天アイスを貪るご と食む
宮崎 髙平確子
八十年百年という節目の年われも卒寿の大台とな る
広島 久保和子
あと何度恐い思いをせにゃならぬ迎え来るまで地震に台風
千葉 林 元子
共生きの声と笑顔の響く寺天井巡る蓮の文月
三重 本城美喜子
いつの間にかエスカレーターを乗れるまでに繋ご うとした手をそっと戻す
大阪 福政葉子
通勤路コンクリート塀にうつせみのしかとそのまま八日目の朝
大阪 林 孝夫
四時に起き妻と二人で畑に行くこの日の猛暑も風はさわやか
評
添削 原作下句「この猛暑でも風が吹きさわやか」
俳壇
大阪 津川トシノ
大西瓜どんなもんだと道の駅
評
「どんなもんだと」がいいなあ。地元の西瓜が威張っているみたい。楽しい。
富山 山澤美栄子
朝散歩お寺の蓮にそして海へ
評
「そして海へ」がいいです。世界が広くなる感じ。こんな感じでボクも朝の散歩をしたい。
大分 吉田伸子
祭りには鰻がきっと伯父の家
評
回想でしょうか。いや、今でも祭りの日の伯父の家ではごちそうの鰻が待っているかも。
福岡 伊熊悦子
朝蟬のフォルティッシモやたまご焼く
福岡 伊熊朋則
西日さす放牧牛の背番号
京都 孝橋正子
頭から井戸水かける夏の庭
岩手 佐々木敦子
復刻の「智恵子のエプロン」夏館
神奈川 里中 信
わが妻はリンゴ片手に太平記
滋賀 長倭文子
目高飼ふ些細な日々の二人かな
和歌山 福井浄堂
遠雷や瀬戸内海のど真ん中
静岡 太田輝彦
木戸くれば十薬の花匂う庭
京都 大八木純正
サングラス帽子給水いざ散歩
京都 神居義之
人気なき児童公園セミセミセミ
広島 河野昭三郎
クラーク像夏日の中の渋き顏
東京 小室清恵
谷底へ半ばはみ出す登山靴
長野 出澤悦子
京アイスいちごに抹茶栗きなこ
青森 中田瑞穂
爽涼や語尾に美の付く女の子
北海道 西山 茂
二、三日蝦夷を生きるか蝉のこえ
大阪 根来譲二
片陰り野外の卓の白ワイン
京都 観山ヒロクニ
下戸なれど今宵満月月見酒
山梨 山下ひろ子
秋の空ベランダスリッパ新しく
京都 後藤喜美子
蜘蛛の糸何度切ってもひっかかる
青森 吉田 敦
背を伸ばすアイスの棒のごとくかな
長崎 吉田耕一
草刈りや木陰の中の椅子一つ
評
添削原句は「木陰の中に」。「の」の反復の快さが草刈りの休憩の快さを強調する。