令和8年3月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数101首

滋賀 大林 等

干し柿を食して気づく里の味生への証ああ有り難き

なにげない事でありながら、やはりそれは「里の味」。「生への証」に思いは至る。

富山 岡本三由紀

職を持ちし時に果たせぬ夢のひとつ扇かざして舞うは楽しも

職から解放された作者の喜びが一首からあふれる。念願の舞うことの喜びが伝わる。

栃木 小峰新平

久々にネクタイ締めて式に出る民生委員の役を退く

上句の具体が効いている。ネクタイを締める短い時間、作者の思いを想像する。

奈良 中谷理英子

村人と帳場で煮炊きを協力し葬儀終えしも今は昔 に

宮城 西川一近

修行を終えしばかりの若き孫元日の堂内きびきび 勤む

アメリカ 生地公男

そーれと僧達で衝く除夜の鐘晦日朝忙し来る年

山口 沖村宏明

表裏全部賀状は印刷だでも一掬の情はあるんだ

岩手 小野寺満

「大好き」と午前零時にラインする十四となりし 君を思いて

青森 中田瑞穂

福は内鬼も内とは愉快なり災い内に取り込む風習

大分 小林 繁

腕を振り床踏み鳴らし舞う神の中身は神楽部女子高生

群馬 新井日出子

熊本の大学四年孫息子枕木眺め満願の笑み

滋賀 奥田壽英

鐘を打つ無情の風につれられてまてど帰らぬあなたの笑顔

山口 小田村悠紀子

鶴首の直筆の軸不昧公書お抹茶の香に江戸感じつつ

宮城 大友裕子

小さき葉をつけて柚子の実二つ置きもうすぐ暮れる十五年目の冬

添削 元歌の上句「小さき葉ついたる柚子の実」を直す。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数279句

福岡 稲永順士

探梅や懐中深くスキットル

「懐中深くスキットル」、恰好がいいなあ。こんな老人になりたかったが、残念! 酒はついに弱いまま。一口で全身が赤くなってしまう。

静岡 太田輝彦

旧正月姉妹連弾駅ピアノ

古(旧正月)と新(駅ピアノ)の取り合わせが現代の生き生きとした一風景をとらえた。連弾が明るく楽しい。

長崎 吉田耕一

メガネ替へ糸通す妻春近し

この句の風景、いつごろから続いているのだろう。そして、この先、いつまで続くのだろう。そのうち、ロボットが糸を通すようになる?

福岡 伊熊朋則

沈ませてちゃぷと跳ね上ぐ柚湯かな

福岡 伊熊悦子

小春日や窓拭き止めてかりんとう

東京 伊藤 文

捨てられぬ毛玉の服や寒の入り

群馬 長田靖代

齢の順屠蘇を待つ子の真顔かな

愛媛 千葉城圓

冬晴れて石鎚の山輝きて

神奈川  藤岡一彌

妻の挿す侘助一花老いの部屋

大分 吉田伸子

明かり消し窓に大きく冬花火

神奈川 上田彩子

やめられぬ怖い小説寒暮かな

京都 神居義之

合はぬ歩を合はすでもなく初詣

東京 小室清恵

大寒や寺の胸像鼻欠けて

長野 出澤悦子

友よりの鰻おこわや十二月

青森 中田瑞穂

春隣立つも座るも声出して

大阪 根来譲二

熱燗にへらへら過ごす三が日

京都 根来美知代

一歩だに出でざる一日春の雪

三重 眞泉廣道

佃煮のアオサのかおり雑炊へ

大阪 光平朝乃

図書館の自習室てふ日向ぼこ

愛知 山崎圭子

大空にパッと大の字梯子乗

東京 山崎洋子

手洗いの石鹸の罅寒に入る

山梨 山下ひろ子

冬晴や御朱印帳の一ページ

石川 山畑洋二

反り残るままに掛けある初暦 

大阪 林 孝夫

初雪と海外の孫へするメール

添削 原句は「孫にメールする」だった。語順を変えてちょっとだけリズム感をよくした。最後に名詞を置いたのでわずかに余韻があるかも。