令和5年4月
浄土歌壇
東京 代田ユキ
秒針はせはしく時を刻みをりわが残生も音なく刻む
評
ひと日ひと日をいとおしみ過ごされる作者を想像し、特に年を重ねるほどにその思いは一入である。
大阪 林 孝夫
カンボジアに帰る孫たちたこ焼食べ関空に向かう深夜便に乗る
評
この一首に「たこ焼」は大いに働きをみせる。関空に向かうお孫さんの姿が目に浮かぶようだ。
滋賀 大林 等
わが術後遠くの山の稜線がすっきり見えて春はそこまで
評
術後の安堵と喜びが一首に溢れている。見馴れている山もすっきり見えて春の訪れを知らせる。
福岡 上野 明
冬至過て家庭菜園のキャベツが巻き出し追肥す一握りずつ
京都 根来美知代
鉄棒にしっかり端を括りつけ保母は背伸びで大繩回す
埼玉 山本 明
雪の富士へ川鵜飛び立つ初春の日は欄干を朱に染めにけり
富山 山澤美栄子
毛糸の帽にスーパーの袋の地蔵様やさしき人はどなたでしょうか
群馬 伊藤伊勢雄
今日の昼飯はお稲荷さんと茹で卵小学時代の遠足のよう
神奈川 相田和子
帰りたい帰りたいと施設より友の願いは受話器に響く
大阪 永田真隆
鬼の面つけたる小さき子が鬼におっかなびっくり豆をまきけり
大阪 橘ミヨ子
学童の黄色い声が寒空の塀の外より響いてくるよ
宮城 曽根 務
父逝きし日数を目指し一千日超えて歩むは喜寿の初春
大分 小林 繁
冬うらら軒端に吊す大根のラインダンスの足並揃う
福井 杉谷小枝子
コロナゆえ逢えずに召されゆく人の面影しのぶわれも老いたり
神奈川 里中 信
春の遅い弥生の街に呼びかけは赤十字の募金今はなつかし
評
「春遅い」「赤十字募金」に「の」を加えた。
浄土俳壇
青森 中田瑞穂
「春遅い」「赤十字募金」に「の」を加えた。
評
このローカル線、五能線でしょうか。季語「春動く」がよく効いて、私はまた五能線に乗りたくなっています。
長崎 吉田耕一
青き踏む小川をひょいと飛び越えて
評
「ひょいと」の軽さがいいです。もっとも、私などは、このようにひょいと飛ぶとその後が怖い気がします。吉田さんはまだ大丈夫?
東京 山崎洋子
青山をマネキン抱え春早し
評
この青山は東京の町の名。「マネキン抱え」に早春の勢いがあります。
大阪 西岡正春
立山は動かず大根吹かれをり
佐賀 織田尚子
聞く見える座る歩ける初日かな
京都 根来美知代
葉桜や朗読の声よく揃い
滋賀 野口直子
春立ちて児らは地べたの移動図書
長野 出澤悦子
女正月テイクアウトのハンバーグ
大分 吉田伸子
窓越しの友との対面春の昼
兵庫 堀毛美代子
立春やまずは珈琲でも飲もか
福岡 吉野ふじの
紅梅や気儘律儀な老婆たち
長野 井原 修
手話の児に手話をおそわり春立つ日
滋賀 小早川悦子
漂着の鯨弔ふ春の夕
神奈川 上田彩子
合同句集ひもとく今宵久女の忌
大阪 永田真隆
ドッグラン立春の風光りけり
大阪 光平朝乃
堀り出せる雪中キャベツ青き空
東京 津田 隆
梅の香や小鳥ひらりと一羽二羽
山梨 山下ひろ子
杖置いて覗き込む母牡丹の芽
アメリカ 生地公男
呼ぶ猫の聞かず存ぜず日向ぼこ
秋田 保泉良隆
受診待つ爺様馴染みのちゃんちゃんこ
石川 山畑洋二
五十年前の瞳の雛飾る
評
原句は「五十年変わらぬ瞳」。こうした方が、印象が強くなるか、と思います。