浄土宗新聞

熟成して味わい深まる 福島で守り貫く日本酒の底力 生酛造り 大七酒造

投稿日時

福島県二本松市・善性寺檀信徒

『大七 純米生酛』(720 ml 1390円)、『大七 箕輪門』(720 ml 4200円)。独自の「超扁平精米技術」によって米の旨味がきれいに際立つ
『大七 純米生酛』(720 ml 1390円)、『大七 箕輪門』(720 ml 4200円)。独自の「超扁平精米技術」によって米の旨味がきれいに際立つ

創業以来、270年以上に渡って生酛(きもと)造り一筋という稀少な酒造がある。福島県二本松市にある「大七酒造」だ。
生酛造りとは、人工の乳酸を添加せず、蔵にいる微生物の力を活用する昔ながらの醸造法。手間も時間もとてもかかるが、骨太の味わいで根強い人気がある。

話を聞かせてくれたのは、十代目の太田英晴(おおたひではる) 社長。2001年に建て替えたという蔵を案内していただくと、新しい建物なのに古い洋館のような雰囲気が漂う。聞けば、以前の蔵の梁や柱、酒母(しゅぼ)を造る生酛室の板を移築し、古い蔵と新しい蔵で交互に仕込みを行い、4年をかけて微生物たちの引っ越しをしたのだという。

「引っ越しは、本当に大変でした」と笑うが、すべては酒造りを支えてきた蔵の微生物を引き継ぐため、大七酒造の酒を守るためだ。「日本酒は搾りたてが一番美味で、時間が経つと味が落ちると言われますが、生酛造りの酒は野生の微生物たちが造り上げたたくましい酒なので、熟成によって美味しくなります。だから大七の酒の多くは、1年ほど熟成させてから出荷しているんです」

まずは『大七純米生酛』を常温で。まろやか! と思った次の瞬間、酸味が広がってキリリと引き締まる。燗にすると、甘い香りが立ち、旨味がほぐれた。
気付けば2杯、3杯と飲んでいた。軽くて飲みやすいからではなく、心地よい美味しさで酒が進むのだ。

「大七の酒は流行の味ではありません。でも、日本酒造りの本質を貫いてきたという自負はあります」
太田社長の穏やかな口調から力強さがあふれ出す。

熟成された大七酒造の酒は世界でも評価が高く、パリのレストランで大好評。アジアでも人気急上昇中なのだという。
日本酒が世界で楽しまれている光景が思い浮かぶ。

生酛の酒瓶と二本松名物の玉羊羹を手に、誇らしい気分で二本松を後にした。

(フードライター:藤岡操)

店舗情報

十代目の太田英晴社長
十代目の太田英晴社長
  • 〒964-0902 福島県二本松市⽵田1-66
  • TEL:0243-23-0007
  • 定休日=土・日・祝日
  • JR「二本松駅」からタクシーで約5分
  • 見学は要予約(有料)
  • 詳細はホームページ
  • 価格は税込