寺院が“共生社会”の軸に要医療者災害避難所プロジェクト 始動
災害時、難病などで医療的ケアが必要な人が避難できる場に寺院を開放するという「要医療者災害避難所プロジェクト」が、大阪市住吉区の願生寺でスタートし、10月31日に防災や医療専門家が参加して初回の現地調査ミーティングが行われた。
これまで病院での末期患者に対する仏教ホスピス、災害支援に携わってきた同寺の大河内大博住職が、一般避難所では人工呼吸器を付けた筋萎縮性側索硬化症患者や高齢者らが受け入れられにくい状況を憂い、地域での寺院の役割を考える中でニーズに応えようと計画。浄土宗ともいき財団の助成も得て具体化に踏み出した。
この日は、各地の災害ボランティアで実績の豊富な防災コンサルタントの園崎秀治氏をまとめ役に、宗教の社会貢献に詳しい稲場圭信・大阪大大学院教授ら3人がアドバイザーとして参加。大河内住職の趣旨説明の後、区の防災マップを手に同寺周辺区域を歩いて学校や福祉施設など町並みを視察、稲場教授が開発したリアルタイムで避難所の状況が分かるスマホアプリもテストした。
レクチャーでは稲場教授が東日本大震災での宗教施設の取り組みを説明、寺院には設備という「場の力」、人の輪という「人的力」、祈りによる心の支えという「宗教力」があると強調した。続いて災害看護学の小西かおる・同大学院教授が「医療的ケア児(者)支援」と題し、呼吸器を付けた患者とその家族の行動支援や必要な機材、停電時の対応準備などを医療的側面から詳細に解説した。
意見交換で園崎氏が、「実際にどんな対象者がいるのかを把握し、事前に寺院を見てもらって何が必要か検討しては」と提案。小西教授が「災害時は場所を提供してまず一時的に安らいでもらい、専門の機関に引き継ぐことも必要」、稲場教授は「檀家も含め多くの地域住民との協力関係が強まれば素晴しい。設備は行政の補助も検討したい」などと助言した。
6時間余りの会合で多くの具体的目標や課題が明確化された。大河内住職は「医療避難所を目指しつつ、寺院が地域福祉で住民や行政、専門家とのネットワークの要に、助け合い精神を示す共生社会の軸になるよう尽力する。各地の寺院のモデルにもなれれば」と話し、まずは対象者を同寺に招いたワークショップなどを計画するという。
(ジャーナリスト 北村敏泰)