地域に開かれた寺院目指して お寺を子どもの居場所に 奈良・寳樹寺 三重・西光寺
寺を地域に開くためにまず子どもたちに親しんでもらおう――。そんな意気込みでコロナ禍でも工夫して取り組みを続ける寺院がある。「子ども文庫」を開く奈良県香芝市の寳樹寺と、「さいさい」の三重県玉城町、西光寺だ。
(ジャーナリスト 北村敏泰)
五位堂子ども文庫 奈良教区寳樹寺
寳樹寺の中村勝胤(しょういん)住職が子ども文庫を始めて30年近く。毎週水曜の夕方になると、山門の外まで子どもたちの歓声が聞こえる。本堂に置かれた書架には少年少女向け文学から絵本、図鑑やコミックまで500冊以上が揃い、多い時期には70人もが来ていた。
ただ最近は、多くの子が本よりカードやゲームに熱中。コロナ対策で距離を取りながらわいわい楽しんでいる。先に友達同士で宿題をする女子もいれば、ゲームに飽きると、内陣も構わず走り回る男子も。塾通いや家で親が留守など、子どもを取り巻く社会環境の縮図が見え、寺がゆっくりできる「居場所」であり続けている。
小さな子が「オセロしようよ」と住職に抱き付き、別の子が「こっちも」とふざけて耳を引っ張ってもニコニコ。家族のように慕われており普段でも道端でけがをした子どもが駆け込む。「行ったら助けてくれる、それも僧侶の役目」と言う住職。コロナ禍の長期化で人同士の接触の意義が再認識されるが、「リモートでは伝わらないものがある。文庫は子どもにとって不可欠なインフラのようなもの。特別に宗教的なことをしなくても、一緒に楽しんで意識せずに身に染みてくるものがあるはず」と語る。
食事を通じて命を学ぶ 伊勢教区西光寺
「さいさい」は、月1回の休日に寺の前の畑で子どもが一緒に野菜を育て、収穫したものを皆で食べることで、食を通じていのちを学ぶ行事。西光寺の西正則(しょうそく)住職と長女千晴(ちはる)さんが中心となって3年前に始め、NPOで運営する。
今は多人数での食事は避け、屋外での作業や環境観察会、工作教室などが中心。農作業は近所の元農家の指導で、白菜、ほうれん草など季節の食材を栽培する。土の匂いや温かい感触に、撒いた種から芽が出、作物が育つ感覚に子どもたちは素朴に感動する。
千晴さんは「自分で育てた野菜を食すことで、命をいただいて生きているということが分かりますし、人のつながりとともに自然を五感で感じるのは貴重です」。西住職は「まずは寺が集える拠り所だと知ってほしい。催しはその第一歩で、長く続けたい」と言う。