令和5年7月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数181首

大阪 林孝夫

掘立ての筍届き柔らかく妻は礼状を速達で出す

結句の「速達で出す」に感謝の思いがこもる。「掘立て」と「速達」は機敏な対応が伝わる。

宮崎 髙平確子

風に揺れるジャガ芋の葉の生き生きと雨上りの庭に陽の降り注ぐ 

情景が眼前に浮かぶ如く詠われており、大切に育てられているジャガ芋への愛情が伝わる。

大阪 大貫尚子

白くなったと心でそっとほくそ笑む孫の靴下今日もごしごし

結句にお孫さんへの思いが込められていてほほ笑ましい。三句にも作者のその時の表情が思われる。

東京 蚫谷定幸

わが師父は朝の連ドラのモデルなり春らんまんと笑顔も咲きぬ

奈良 川本惠子

万葉の歌に詠まれし山々は今は平和か大和三山

東京 代田ユキ

ひたすらに香るでもなくさくら花静もる園をつつむ夕映え

神奈川 相田和子

庭の花愛でつつ今は亡き夫に紫蘭の花を供へては語る

滋賀 北川徳子

幹線道の開通せし朝佛壇に供えてと花を持ちくれし友

群馬 伊藤伊勢雄

両親と我等を連れて食事会この日は孫の初給料日

埼玉 岸治巳

お隣りの子猫は今年母となり子を呼ぶ声は母親の声

長崎 久田浩一郎

さまざまな介護の場面思い出し父をなつかしむ一周忌の読経に

埼玉 山本明

青山に据え置く石に刻むべき文字は生きざま自在と定む

滋賀 山仲良隆

満ち足りし豊かな顔の写真眺め楽しき二人の旅の一日

青森

衰へし吾を支へる介護の手温かきかな介護の乘り降り

井戸房枝

富山 岡本三由紀

わが掌より消えし家の鍵旅立ちに持って行ったのか遺影の夫が

四句目「持って逝ったのか」であったが。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数237句

三重 森 陽子

春の朝水田に映る通学生

絵のような風景が目に浮かぶ。575の言葉の絵になったとき、俳句はきらりと輝く。

大阪 西岡正春

目高置き妻のしばらくゐない家

目高の世話をしている夫が目に浮かぶ。わが家にも目高がいて、毎年、春にはその目高に名をつける。一雨、二雨…五雨というように。

兵庫 堀毛美代子

崩るるをながめ牡丹の日々ありて

牡丹のように自分も崩れる? 「牡丹の日々」は豪華というか、とっても充実の日々なのだろう。

長野 出澤悦子

桜蕊降るシーソーに子のはしゃぐ

滋賀 小早川悦子

蕗むくや母と一緒に夕支度

愛知 矢田一子

げんげ田に寝転ぶ子らと先生と

大阪 津川トシノ

恐竜の骨組み吠えて春の空

和歌山 福井浄堂

山門の前で御喋り春の暮

大分 小林客愁

夏の海渚に並ぶゴム草履

福岡 古野ふじの

一軒に二竿めでた鯉幟

長崎 平田照子

夏に入る身辺捨つるもの多し

京都 根来美知代

紫陽花に包んで貰うかくれんぼ

大阪 宮﨑昌彦

明け易し一畝手入れして朝餉

京都 孝橋正子

夕永しひと匙ずつの離乳食

大阪 岡崎勲

歳時記の破れ繕ふ薄暑かな

山梨 山下ひろ子

堂々と自己肯定の杉菜かな

青森 中田瑞穂

青葉潮祖母の遺品は石一つ

神奈川 中村道子

春の日やいつしか白髪媼なり

秋田 高橋さや薫

草木も吾もびしょ濡れ穀雨かな

大阪 光平朝乃

チェンバロは二段鍵盤夏来たる

静岡 伊藤俊雄

瞑想やガラスに映る若葉影

神奈川 上田彩子

亀の鳴く碁盤に向かう父と夫

愛媛 千葉城圓

キラキラとサヨリ波間に伊予戸島

原句の「上がり来る」を「伊予戸島」に変えた。戸島は作者の住む島。具体的な表現が句を言葉の絵にする。言葉の絵を目ざして作りたい。