令和5年8月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数165首

宮城 西川一近

本山の講座を受ける前試験に出かける孫を皆で見送る

一首を読み終えてその光景が自ずと見えてくる。作者の感慨もひとしおのことでしょう。受験に出かけるお孫さんは大学一年生とのこと。

青森 中田瑞穂

明日また囲碁を打とうと笑みて言う友も独り身われも独り身

いいですねえ、この友人関係。お互いに独り身ゆえに自由な時間がもてるのでしょうか。どうぞ運動不足になりませぬように老婆心ながら・・・。

東京 山崎洋子

自転車も乗せる単線に走り込む子供らの声マスクなき顔

さてどこを走る単線でしょう、自転車も一緒に乗ることのできる電車は。この一首から読者はそれぞれに想像の翼をひろげれば良いのでしょう。

大阪 橘ミヨ子

わが庭の梅の実数えその葉裏の美しきかな緑冴えいり

兵庫 吉積綾子

腹に土つけて頭を深く下げ口惜しさこらえ去りゆく力士

奈良 中村宗一

縁側も土間もなく床の間も洋風化の波は過疎の村にも

アメリカ 生地公男

毛繕う猫を細目に添い寝してランチを忘れ虚ろに寝入る

愛知 横井真人

純白のくちなしの花黄の果実餅につき込みあられ作りぬ

滋賀 中村ちゑ

密やかに菖蒲の蕾ふくらめり耳を澄ませて緑陰のなか

奈良 畷 崇子

「万太郎」顔近づけて対話するあざみ二輪よ何と応える

大阪 津川トシノ

バリアフリーにするためですと解約すパートでためた定期預金を

愛知 吉田喜良

公園を通り抜けゆく人の足行くあてあれば皆急ぎ足

長崎 吉田耕一

杖をつき信号渡る人に手を貸しつつ渡るはにかむ生徒

元歌は「信号を渡る白杖手を貸してはにかむ生徒若葉の匂い」であった。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数202句

和歌山 福井浄堂

瀬戸内の布教を終へて薄暑かな

瀬戸内の島々、あるいは湾や入り江をめぐったのだろうか。季語「薄暑」から布教を終えたちょっとした満足感、快さを感じる。

大阪 西岡正春

ブータンへ天道虫よ飛んで行け

「ブータンへ」という意外性というか、空間の大きな広がりが愉快。天道虫、張り切って飛んだ?

大阪 光平朝乃

素麵や今日始めたるツィッター

ツィッターデビューが素麺のつるっとした感じで始まった。ツィッターの日々が楽しくなりそう。

群馬 長田靖代

立葵かすかに揺らぎ青空へ

大阪 津川トシノ

朝顔の紺の手拭い壁に張り

兵庫 堀毛美代子

妹を一人したがえ粽食ぶ

大分 吉田伸子

木の芽時少し派手めの耳飾り

神奈川 藤岡一彌

余り苗雨に根づきて畦の道

福岡 谷口範子

卯波寄すテトラポットを洗ふ音

滋賀 山本祥三

蜘蛛の巣を通して見ても美女である

長崎 片岡忠彦

干しあごを焼いて骨まで酒肴

東京 松井なつめ

閉店の張り紙滲む梅雨最中

福岡 上野 明

家の内蜂飛び回り妻逃げる

長野 出澤悦子

新緑や市バスことこと一人旅

神奈川 上田彩子

幸不幸跡形もなく青嵐

大阪 大内純子

亭主殿ピクルス漬けて梅雨ごもり

大阪 林 孝夫

6回目ワクチン接種妻と行く

秋田 保泉良隆

春風を振る少年の木のバット

東京 山崎洋子

初めての口紅は赤梅雨に入る

山梨 山下ひろ子

父の忌や青柿あまた七年目

三重 藤井弘美

新緑や和泉のお寺ひとり旅

東京 津田 隆

朝顔の種まき三日芽はまだか

東京 蚫谷定幸

立葵私の背丈越えている

青森 中田瑞穂

夏富士の空を見たくて万歩計

滋賀 小早川悦子

お茶好きの二人新茶の香の中に

原句は「新茶の香に酔いし」でした。「酔いし」は言い過ぎ。情景だけを表現したい。