令和5年9月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数156首

群馬 新井日出子

絵を描き笹の葉に吊し園児らはローカル電車に活気をそえる

ローカル列車内のひとときのにぎわいがこの一首から伝わる。七夕の季節の園児らの表情までも。

大阪 林 孝夫

三年ぶり施設の母の部屋訪ね二人向き合いしっかり話す

母上との面会は三年ぶりとのこと。下句には積年の思いが結句によって読む者にも伝わる。

愛知 横井真人

亡き妻の植えおきしカサブランカや香り豊かに遺影を包む

下句に作者の思いが十分に表現されている。そのカサブランカは亡き妻の化身のようにも・・・。

兵庫 堀毛美代子

庭の木々に鳥の声の数多く巣箱のごとし六月の庭

愛知 吉田喜良

一匹の蛙鳴きいる午前二時余程悲しいことでもあったのでしょうか

兵庫 吉積綾子

亡き兄が兵たりし頃一度だけ蝉食べしこと語りくれたり

京都 木瀬隆子

朝夕を元気に散歩の老夫婦小さな町の小さなブーム

大分 小林 繁

専攻の介護医学を卒業す未来のナースの笑顔爽やか

京都 根来美知代

涼秋の老人世帯のポストにも園児募集のちらしの入る

奈良 畷 崇子

シャボン付け姉の背中を洗う時にっこり笑って感謝のことば

東京 蚫谷定幸

ささやかな水の力と引力と素麺流し蝉時雨聞く

岡山 谷川香代子

琉球朝顔屋上からの綱に添いリハビリ院のみどりのカーテン

長崎 吉田耕一

明日もまた今日と同じに出来るように今日に感謝し日記を閉じる

富山 岡本三由紀

ばあちゃんへ娘の読む弔辞われの知らぬことあまたありて涙あらたよ

茨城 齊藤 弘

水槽の目高二年の生を閉づ二十余年の水槽飼育歴

元歌の上句「よろよろと目高二年の生を閉づ」。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数226句

大阪 西岡正春

金星のうしろ側から天道虫

この金星、宵の明星だろうか、明けの明星だろうか。眼前の天道虫はその金星の裏側からやってきたのだ。もちろん、それは嘘だが、嘘が読者の想像を広げ、575の言葉を楽しませる。

大阪 光平朝乃

生き鮎に小さき蓼酢を付けて売る

食べ物の句はうまそうに作ることが大事。この句、鮎がいかにもうまそう。

山口 沖村去水

青田波青田風吹く青田道

季語「青田」から派生した3つの季語を並べ、青田の爽快さを言葉の響きで表現した。この句、口ずさむと青田道に立っている気分になる。

東京 伊藤侑夫

五月晴高層ビルに山羊仲間

佐賀 織田尚子

茄子の紺光ってザルにてんこ盛り

大分 小林客愁

梅雨晴れに破顏一笑摩崖仏

岩手 佐々木敦子

滴りや御目閉じてる摩崖仏

滋賀 小早川悦子

縫ひあげて夏服友とランチ会

大阪 津川トシノ

結納を省いて桐の清々し

長崎 平田照子

畦道の真中に蟇のでんと座し

三重 藤井弘美

校庭に栴檀の花子等あおぐ

兵庫 堀毛美代子

百合の香を仏間に広げきのふけふ

福岡 古野ふじの

漫然と眺める窓の梅雨夕焼

神奈川 中村道子

素足なる我にスリッパ出す夫

長崎 吉田耕一

朝顔やポンポン船の音届く

大分 吉田伸子

新茶汲む説明書きを読みながら

神奈川 上田彩子

夏山へ向かうリフトにぐんまちゃん

京都 北村峰月

素麺の茹で時メモに妻の留守

東京 津田 隆

葉脈を雫がぽたり梅雨明けぬ

青森 中田瑞穂

退院も自動会計梅雨明ける

大阪 永田真隆

七夕の流しそうめん汁に

福岡 上野 明

早朝の茄子の太さよ鋏ちょん

原句は「茄子の実太くハサミ入れる」だった。「太さよ」の重さと「ちょん」の軽さの対照が早朝に楽しい気分を伝えるだろう。