令和5年12月
歌壇
大分 小林 繁
ブラインド下ろすナースの後背に今日のひと日の黙礼送る
評
作者のナースへのまなざしのやさしさ、感謝の思いが伝わる。その場の情景が自ずと目前に…。
大阪 津村仁美
阪高の明かりが秋の星に見え手を合わせいつ父の祥月命日
評
「阪高」は阪神高速、その明かりが天上の父上の知らせのように感じて手を合わせると作者は言う。
宮城 西川一近
修行より戻りし孫は衣着て法務手伝う秋の連休
評
お孫さんは大学一年生とのこと、作者のよろこびも一入でしょう。眼前にその様子がうかぶようだ。
兵庫 堀毛美代子
秋の野を虫とどこまでゆけばよいそろそろ戻ることも考え
埼玉 山本 明
在りながら友と別れむ別かるれば寂しきこの世と 知りつつ別る
広島 山本玲子
秋晴に色づき初むるみかん山行き交ふ人等の声軽やかに
愛知 吉田喜良
動物をこよなく愛する若き住職読経のあとは犬猫 談議
兵庫 吉積綾子
新聞の活字に老の血がさわぐ余生の句作に張合いが出る
京都 根来美知代
新米と共に届きし地方紙の友の投書をいそいそと切り抜く
群馬 新井日出子
猛暑続きテレビの報道見ておれば暑さ日本一は桐生市と云う
愛知 横井真人
浄土歌壇「見たよ」「読んだよ」にこやかに話に花咲き絆深まる
大阪 林 孝夫
カラカラの土に冬野菜植え付ける9月といえど続く真夏日に
富山 岡本三由紀
しなやかに伸びし指先駒放つ音響かせる若きプロ棋士
長崎 吉田耕一
目の手術終えて大空仰ぎ見るこんなに蒼く透ける空かと
宮城 曽根 務
新聞の「歌壇」の選抜にまた没と上段に移り冒頭歌に焦る
評
元歌の上句は「開く歌壇下段眺めてまた没と」。
俳壇
神奈川 上田彩子
盆支度せず大糸線に乗っている
評
いいなあ。こんな人、大好きだ。習慣や行事などを時に大きく逸脱すること、それが人を生き生きとさせるコツではないだろうか。
長野 出澤悦子
ユーチューブラインメールの夜長かな
評
これは現代の夜長の風景。私は「窓と窓」というブログをやっている。俳句を中心にして晩節の言葉を考える場として。覗いてください。
大阪 津川トシノ
ハロウィンのカボチャ笑いがあぐらかく
評
「笑いがあぐらかく」がいいなあ。ハロウィンに限らずいつでも笑いがあぐらをかく暮らし、そんな暮らしを私は望んでいる。
青森 井戸房枝
仏壇に京のお菓子の秋彼岸
滋賀 小早川悦子
おちよぼ口吹ひてかすかなひよんの笛
岩手 佐々木敦子
秋灯し古字に馴れ染む「春と修羅」
兵庫 堀毛美代子
歳一つ上よ下よと敬老日
東京 松井なつめ
羽根あらば吸いこまれたき秋麗
東京 津田 隆
秋夜長ハイネになりて筆をとる
青森 中田瑞穂
錦秋や油彩画に描く可動橋
神奈川 中村道子
お茶請けの無花果熟し冷えてをり
京都 根来美知代
お隣はカレー調合落葉焚
秋田 保泉良隆
老人の日の品配る八十歳
大阪 光平朝乃
秋時雨カウベルの鳴るドアを押す
東京 山崎洋子
ジーンズの裾の綻び後の月
山梨 山下ひろ子
湖底の三十の家水澄めり
石川 山畑洋二
加賀時雨越前しぐれ旅ひと日
群馬 長田靖代
野菊ゆれ細き眼の野の仏
評
原句は「細き眼や」だった。「の」にしたことで二つの「の」が響き合い、その快い音が野の仏のやさしさを表現する。