令和6年1月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数172首

栃木 小峰新平

晩秋の暮坂峠で牧水の詠みし詩文を手で擦り読む

作者は若山牧水に親しみを込めて下句のように詠まれたのでしょう。結句にその思いは顕著である。

山口 沖村宏明

海や空不幸せとか希望とか中心点のないものが好き

なかなかユニークな一首。このように詠まれてしまうと、読む者は「なるほど…」と思わせるところに面白さがあって、想いをあらたにする。

青森 中田瑞穂

風船はデリケートですよという君は飛びます破れます恋する内に

作者はこの一首の中で何を主張したかったのでしょう。読者の各々が想像をふくらませて、それぞれの解釈で受け止めれば良いのではないでしょうか。

大阪 林 孝夫

オリックスファンの孫はカンボジアで阪神の私は日本で応援

福岡 上野 明

山道の深夜のドライブライト先に子連れの鹿にブレーキを踏む

神奈川 相田和子

故郷の深き緑の山並に心身ともに安らぐひととき

群馬 新井日出子

ふと思いテレビに映る貧困の子等を眺めてユニセフに寄付

群馬 伊藤伊勢雄

紅葉狩に行けず青空仰ぎつつ柿食みながら畑耕す

山口 小田村悠紀子

道の駅に見つけし渋柿十四個わが家にやっと秋の訪れ

岡山 小川信男

飛んで来たバッタ一匹虫籠に放してやれと四才児は言う

滋賀 奥田壽英

夕暮に菩提寺の石段登りきてありがとうと白菊供う

群馬 北島文子

雨風に倒れし稲穂起こしあげコンバインつぎつぎ刈り取りを急ぐ

大阪 安藤知明

年金の旅は金なし時間あり青春きっぷで各駅停車

福井 杉谷小枝子

今日よりはこの地を離れ子の許へ去り行く友の老いの手握る

元歌の結句は「老いた手を握る」であった。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数250句

青森 井戸房枝

日向ぼこ耳遠ければ笑ひ合ふ

話の中身は聞こえないが、笑っていると分かる感じになる。この耳の遠くなった感じ、分かるなあ。

東京 椎野恵子

笑い皺どんと増え冬は肉じゃが

「肉じゃが」がいいです。元気が出そう。

東京 山崎洋子

いま狐通りましたとウエイター

この句のようなカフェが近所にあるといいなあ。店の客の全員が狐の通った窓へ目を向けている!

埼玉 東 咲江

灰皿に徹夜のあかし初時雨

福岡 伊熊悦子

菊日和百歳と食む塩羊羹

愛媛 千葉城圓

松の幹黒さを増して九月来る

長野 出澤悦子

秋日和移動販売車へ向かふ

神奈川 藤岡一弥

金継ぎの盃で酌む十三夜

埼玉 三好あきを

ハローウィンのお化け大好きデカ南瓜

富山 山澤美栄子

殿様の守り秘仏や姫りんご

兵庫 吉積綾子

金山寺味噌に胡瓜や朝の膳

アメリカ 生地公男

サンタナ風高速道ゆさゆさ行く初冬

東京 蚫谷定幸

着ぶくれの雀のつどふ朝七時

神奈川 上田彩子

漱石を気取るあなたと後の月

山口 沖村去水

草虱つけて墓参の帰り道

秋田 高橋さや薫

大菊やパンプスを履く老婦人

埼玉 塚﨑孝蔵

父の里牛久大仏いわし雲

青森 中田瑞穂

泣き相撲の泣き声高し冬が来る

大阪 永田真隆

秋深し動物園の虎眠る

奈良 中村宗一

三度目はお雑煮用の大根蒔き

秋田 保泉良隆

老人が老犬連れて日向ぼこ

大阪 光平朝乃

バスが着くけやき落葉の吹溜り

愛知 山崎圭子

水琴の澄む蹲踞や小鳥来る

山梨 山下ひろ子

柚子をとる虫喰いへこみ全部マル

東京 伊藤侑夫

栗飯のおみやげは母多言なり

大分 小俣千代美

そばに在る眼鏡と日記文化の日

「文化の日眼鏡日記帳そばに在り」が原句。末尾の季語「文化の日」が眼鏡と日記帳をくっきりと浮上させる。語順を変えることは推敲の基本です。