令和6年2月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数150首

宮城 西川一近

夜ごもりのおつとめ孫も加われば御堂に流るる七名の声(僧侶の経)

作者は僧侶、七名の声にはお孫さんも加わって実に頼もしいかぎり。「僧侶の経」というのは初耳。

兵庫 堀毛美代子

街路樹を紅葉させる秋風がコーヒーカップの湯気さらいゆく

上句はなかなかユニークな発想、又下句のなにげない捉え方にもその場の雰囲気を醸しだす。

奈良 中村宗一

未練など無いといえば嘘になる持ち物処分遅々と進まず

この一首に同感する人は多いのではないでしょうか。持ち物整理に意外に時間のかかるのは「未練」なかなかスパッ!ととはいかない。

和歌山 宮本博信

遠足の前日孫と貝拾い靴はずぶぬれ娘に叱られ

長崎 吉田耕一

自分よりあいつが先になぜ逝くの佳人薄命と信じ ていたが

神奈川 内田陽子

こぼしつつ一人で食べる二歳のひ孫この子の命をうれしく思う

富山 岡本三由紀

坊守の澄みたる歌声響きいる御堂の奥までご開帳 の朝

埼玉 岸 治巳

手提げには薬袋が三種類師走の風がやけに冷たい

大分 小林 繁

いざこざを避けて独り居歌を詠み己が心の隙間を埋む

大阪 橘ミヨ子

千両を活けて迎える初春の心穏やか満たさるる思い

岡山 谷川香代子

才能有りなどと煽てられ気を良くし絵手紙教わるデイサービスで

東京 田中恭子

孫の写メール山門写す鏡池我も撮りしか修学旅行で

埼玉 山本 明

今日もまたトロイメライは児童らに完全下校の時を告げたり

長崎 片岡忠彦

解禁日若布刈りに船集い漁師の長竿黙々動く

元歌の二句目「若布刈り」に「に」を加え、結句「黙々動き」は「黙々動く」とした。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数218句

大阪 津川トシノ

手のひらに乗る鏡餅ワンルーム

小さな鏡餅がワンルームによく合っている。ささやかな幸福感が快い。

山口 沖村去水

百米落葉を掃いて芋を焼く

百メートルという具体性がよい。もっとも、今は落葉を焚いて焼き芋を作るのはむつかしい。焚火は禁止されているから。思い出の句だろうか。

青森 中田瑞穂

全滅の美学か如何雪女

雪女に「あなたは全滅の美学を生きているの」と問うている。さて、雪女の答えは?

佐賀 織田尚子

まだ我を操縦できる暮早し

大分 小林客愁

年の瀬やキュキュキュキュキュキュと窓磨く

茨城 齊藤 弘

冬うらら服薬妻と競うかに

大阪 橘ミヨ子

托鉢の僧が連なり時雨かな

長野 出澤悦子

数独のわくわくとせし帰り花

和歌山 福井浄堂

瀬戸内のきらきらきらと冬日和

大阪 宮﨑昌彦

熱燗や終電忘れてはをらず

埼玉 山本 明

焼芋や仁とか義とか知ってるかい

大分 吉田伸子

菊花展母の形見のメガネして

静岡 伊藤俊雄

小春日やスコアさしおき強振す

神奈川 上田彩子

男振り上げたつもりの革ジャンバー

静岡 太田輝彦

青き空棟梁の胸に赤い羽根

埼玉 塚﨑孝蔵

何時までも考えてる小春日和

大阪 永田真隆

ラーメンに眼鏡曇れる受験生

奈良 中村宗一

池の泥抜いて今年の農終わる

大阪 光平朝乃

雲わきて冬日あたりて関ケ原

山梨 山下ひろ子

手袋や五本の指の確と入る

石川 山畑洋二

眠られぬ熊か茂みのちょと動く

長崎 吉田耕一

妻の影踏みつつ帰る冬日和

愛知 山崎圭子

窯変の陶を思へり柿紅葉

長野 井原 修

住職はロック大好き雪見酒

「ロックが好きで」が原句。「で」はたいていの場合に説明的、散文的になる。要注意だ。