令和6年3月

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歌壇
堀部知子 選 投歌総数190首

滋賀 大林 等

霜の朝孫の手をとり登園す一年生の春はそこまで

ほのぼのとした幸せが立ちのぼってくるようだ。もうすぐ一年生になるそのお孫さんと幸せな時間。

長崎 片岡忠彦

彼岸餅お供え終えし子供らに下げるぼた餅私もひとつ

この結句でまざまざと場面がうかびあがってくる。「彼岸餅」はその地方の慣わしなのでしょうか。

東京 蚫谷定幸

騎馬群を迎えるごとき冬の陣七福神の御朱印書きは

作者には特別な感慨をもっての御朱印書き、「七福神の御朱印書き」が参拝者に届きますように…。

青森 中田瑞穂

筋トレの一つと決めて雪を掻く雪国だけの特権なのか

群馬 新井日出子

高台へ避難を叫ぶアナウンサー地震の不安声高らかに

福岡 上野 明

長門市の温泉旅館で立ち寄り湯華麗な造りの風呂 に堪能す

青森 井戸房枝

わが務めの夫の七回忌姑の五十回忌すみて九十二才の閉ず

大阪 大貫尚子

よじ上る捜索犬にも支えいる自衛隊員にも手を合 わすなり

山口 沖村宏明

人間のつまらぬ欲を放り捨て大鳥になり空を飛び たい

佐賀 蒲原知愛子

寒き朝寝息と温もりを確かめる夫の命のありがたきこと

滋賀 奥田壽英

大空へ嬉しい心舞い上がれ悲しい心に笑顔の亡父が

福岡 古賀悦子

喧騒の天神の町あまたなる柿の実輝き越年したり

東京 芦田晋作

少しずつ少しずつしか変われない進めない虫はるか彼方へ

大阪 越野常一

スーパーで現金もちず買い物にお布施もいずれキャッシュレスかも

山口 小田村悠紀子

幼き日姉妹で歌いし「冬の星座」今カラオケの十 八番に

二句目「うたった」結句「十八番」を直す。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数242句

大阪 津川トシノ

初あられ窓辺に寄りてティータイム

「初あられ」という風景と「窓辺に寄りてティータイム」という風景が取り合わせになって、より立体的な言葉の風景が出来上がっています。ティータイムがとても豊かで楽しそう。

東京 松井なつめ

冬満月卑弥呼のかざす鏡かな

冬のこうこうと冴えた月が卑弥呼の鏡みたいなのです。いや、月光の中で卑弥呼が鏡を見ているのかも。どちらにしても魅力的な言葉の風景です。

愛知 山崎圭子

吹く椀のさみどりさ揺れ七日粥

二つの「さ」が響き合って七種の緑を強調しています。リズム(言葉の音調)もまた575の言葉の絵を効果的にします。

福岡 伊熊悦子

枯れてなほ目力強きいぼむしり

福岡 伊熊朋則

深々とひびの入りしや鏡餅

群馬 長田靖代

寒菊は子等集う日に剪るつもり

福岡 上野 明

水仙の白き花咲くわが庭に

京都 孝橋正子

自然薯の割竹にのせ売られけり

滋賀 小早川悦子

どう見ても父似と思う初鏡

岩手 佐々木敦子

冬至晴れグローブ届く小学校

大分 小林客愁

昨日今日明日へと続くおでんかな

大阪 西岡正春

歳末の得体の知れぬ揉み手かな

奈良 畷 崇子

かす汁のぬくめぬくめておちょぼ口

滋賀 野口直子

竜の玉爺ちゃんバンド八十代

大阪 原田勝広

年忘れ尽きぬ話題はもの忘れ

長崎 平田照子

初日の出大海原に大風車

兵庫 堀毛美代子

境内のよく日の当り残り福

東京 山崎洋子

どの席も駅伝話おでん酒

山梨 山下ひろ子

元日や五年日記の一行目

東京 津田 隆

冬うらら妻の歩幅で歩く午後

大阪 大内純子

大根炊いて大根卸して松の内

山口 沖村去水

寒晴れの青より蒼い空や空

「寒晴れや」が原句。「や」で切らないで「の」で一挙に空へ至りたい。その方が「空や空」という感動が生き生きするだろう。