令和6年4月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数144首

東京 蚫谷定幸

裸木の彼方に見ゆるシリウスの青き光は闇を切り裂く

情景が自ずと目に浮かぶ一首。闇のなかであれば尚更のこと。その情景をすかさず一首に納める。

山口 沖村宏明

顔年齢体重などは知らねどもラインで繋がる異性の友だち

なかなかユニークな一首。ラインで繋がる異性のことをさまざまに想像するのも良いのでは…。

京都 根来美知代

バス停に臨時移設の知らせ貼る職員忙しマラソン迫る

マラソンの日が迫るある日の一首。職員への心づかいがやさしい。なにげない上句の表現が良い。

大阪 林 孝夫

帰るから父の餃子と母の作るコロッケ食べたい娘からのメール

和歌山 宮本博信

願い事ある時だけの墓参り浄土の父母は何をか言わん

長崎 吉田耕一

地球儀を見つめつつ居れば無風なり戦などない国境地帯

兵庫 足立宏美

やすらぎを絵に画くようにすやすやと退院後の夫の寝顔は

群馬 新井日出子

園児らは赤鬼青鬼節分に豆に見たてて紙豆を撒く

神奈川 相田和子

初詣で支えられつつ鐘鳴らす遠き日偲び息子と共に

神奈川 内田陽子

蓋取れば京の香のたつ八橋よ孫の土産に心和らぐ

福岡 上野 明

冬の日に畝に鍬打ち頭あげ遥かな頂は真白き冠

滋賀 奥田壽英

春彼岸古里を閉じ痛む胸墓地に佇む八十路の私

大阪 大貫尚子

月遅れの初競りなれど鰤、鰤、鰤ざざっと飛び出て銀に舞い立つ

滋賀 村木敬子

初めての〆縄作り門松と子の後ろ背に亡夫の重なる

宮城 曽根 務

白き梅の咲き始めたり澄める空に群れ帰る白鳥青に輝く

「白き梅」に「の」を、結句「輝き」は「輝く」

俳壇
坪内稔典 選 投句総数227句

岩手 佐々木敦子

東南東早池峰視野に恵方巻

「早池峰」という具体的な場所を示したところがよい。遠景の早池峰と近景の恵方巻が張り合っている感じ。楽しくていいなあ。

大阪 光平朝乃

探梅や見知らぬ街の珈琲店

探梅は立春以前に早咲きの梅を見に行くこと。まだ冬のさなかなのだが、珈琲店を見つけてほっと気分が暖かくなっている。心にも梅が咲いたか。

山梨 山下ひろ子

下萌えて土竜蠢く地球かな

最後の「地球かな」という大きな視点が愉快。地球が土竜の蠢きで揺れている。下萌えの時期(早春)の楽しい575の言葉の絵だ。

大分 安部ユリ子

境内は梅の開花か福みくじ

埼玉 東 咲江

上等の醤油一滴寒卵

東京 池田眞朗

もう少しできることあり春一番

福岡 伊熊悦子

福耳に揺れるピアスやお元日

長崎 片岡忠彦

燕の巣子育てさなか橋の裏

大分 小林客愁

お裾分けよっこらしょと大根抱く

茨城 齊藤 弘

盆梅の紅白包む日向かな

東京 椎野恵子

カナリヤが鳴き謎めいた春の風

長野 出澤悦子

寒雀窓越しの声朝七時

大阪 原田勝広

風花や小屋から仔犬顔を出し

長崎 平田照子

蕗の薹友と穴場をめざし行く

兵庫 堀毛美代子

味噌汁を吹き窪ませて寒明ける

埼玉 三好あきを

九十五の年男とか坐り居し

大阪 宮﨑昌彦

一波二波玄海越へて寒波くる

埼玉 山本 明

念願のテラス席なり冬木立

東京 蚫谷定幸

水仙にお辞儀を返す朝の僧

静岡 伊藤俊雄

漆黒の山並み遥か冬銀河

静岡 太田輝彦

青き空一斉放水二重虹

大阪 岡崎 勲

何時もより淑女の増えて初句会

東京 山崎洋子

回覧板ポストにそっと木の芽風

大分 小俣千代美

いそいそと苺大福春立ちぬ

大阪 津川トシノ

冬青き空と私のマフラー赤

原句は「わたしのマフラーと」。赤を加えて空と地上の対照を鮮やかにした。