令和6年5月
歌壇
大阪 林 孝夫
春近しカンボジアの孫に満開の河津桜の写真を送る
評
なによりのプレゼント。お孫さんは日本の桜をどのように受け止めたのでしょう。その反応や如何に。
埼玉 岸 治巳
民宿のあのおばさんも避難所に居るだろうか春を待ちつつ
評
作者のやさしさが伝わる一首。春を待ちつつきっと居るにちがいないと思いを込める作者だ。
栃木 小峰新平
目で選び触れて確かめ値を比べ我持つカゴに妻は加える
評
短歌を常に心がけているにちがいないと思える。なにげない属目をさりげなく一首にする力は見事。
大分 小林 繁
勝手口を密かに出でし妻の所作怪しむ足元に親子狸が
宮崎 髙平確子
豊作の手塩の大根いろいろにおでん、ふろふき、漬け物、切干し
滋賀 中村ちゑ
不意にくる死を思はせる幾度か病乗りこえ白寿も近し
大阪 津村仁美
ヘアカラー五才は若くなったよとほめ合いひと日ホームは春に
兵庫 堀毛美代子
日常は変らぬ雛の日これもよしこの自由なる老いの一日
奈良 畷 崇子
散歩する時に思うは友のことベッドで寝たきり寝返りできずと
埼玉 石村和子
ジョウビタキ桜を待たずに北帰行旅立つ前にたくさんお食べ
愛知 三澤貞子
三つ上の姉に会いたい語りたい二人だけの故郷があるから
宮城 西川一近
玄関にスイトピーの花香り立ち雛飾られにわかに春めく
滋賀 森嶋直子
親の虐待を受けたる施設の子供らはわが手作りのジャムに喜ぶ
大分 豊田富美子
梅の木より鶯の声聞こえ来て父に習いし念佛の声
埼玉 塚﨑孝蔵
老木に餌台を置きてさえずりの春告げ鳥のうたを楽しむ
評
元歌の二句目「置きし」を「置きて」にする。
俳壇
福岡 伊熊朋則
浅春や羅漢の薄き膝頭
評
センシュン(浅春)は早春と同じ。まだ寒さが残っていて、羅漢さんも膝頭がなんだか寒そう。羅漢さんを人並みに扱ったところが俳句的な発想。
京都 孝橋正子
立春の完走豚汁具だくさん
評
完走した充足感が「豚汁具だくさん」で具体的に示されている。この豚汁、とってもうまそう。
埼玉 山本 明
花冷や坂の途中のワインバー
評
ちょっとしゃれた風景。宵にはそのバーへ寄りたい、という気分だろう。
愛知 矢田一子
暖かや猫の丸まる種物屋
大分 吉田伸子
朝の道蕗の花芽の一処
大阪 森 敏記
制服の採寸終えて春を待つ
東京 松井なつめ
蜜蜂や花粉団子が重かろう
長崎 平田照子
大正の母の雛を飾りけり
大分 小俣千代美
労らひてお道具持たす古雛
兵庫 堀毛美代子
叔父叔母を従へし母雛の間
福岡 古野ふじの
史磧野の今をさかりの藪椿
秋田 高橋さや薫
鴉たち声かけ合ふて春の夕
大阪 津川トシノ
公園に遊具新設イヌフグリ
東京 椎野恵子
産みたての卵春らしい曲線
滋賀 小早川悦子
草餅が絶品町の和菓子店
福岡 上野 明
春椎茸焼きてポン酢で食卓に
青森 吉田 敦
世界史に新たなページ桜東風
石川 山畑洋二
なほ続く余震の大地耕せる
東京 山崎洋子
先生も泣いていたよと卒業子
愛知 山崎圭子
ふらここや行き違ふ言彼彼女
大阪 光平朝乃
断りの言葉ならべて春の雨
大阪 福村昭裕
数独に目覚める妻の春隣
京都 根来美知代
風船を抱えてゴールひよこ組
青森 中田瑞穂
春菓子や七等分で在りし頃
東京 津田隆
土筆ん坊ひとつ見つけて上着脱ぐ
山口 沖村去水
まつ毛にね春愁乗っけ君笑う
神奈川 上田彩子
春の雨株急騰の昨日今日
福岡 伊熊悦子
唐寺にはためく幡や春の雲
山形 阿部美智子
鳥待つや枝の蜜柑の半分こ
和歌山 福井浄堂
鶯やステップ踏んで作務の僧
評
原句の「動き軽やか」を具体的な動きにした。