令和7年1月
歌壇
宮城 曽根 務
彼岸過ぎ君の墓前に手を合わす残暑の空に白鳥の聲
評
自ずと情景の浮かんでくる一首で、結句でその土地の様子が知らされる。彼岸過ぎの穏やかな一首。
アメリカ 生地公男
翔平の悲願祝勝にあやかれと禁酒無法のシャンペンを冷やす
評
「禁酒無法」とはややおおげさながら、その時の作者の喜びがストレートに伝わる。
岩手 小野寺満
七十年(ななそとせ)刻む心のダイアリー我が来し方に想いを馳せて
評
「七十年」大きな大きな節目、「心のダイアリー」言い得ているようではあるが、具体性が欲しい。
京都 神居義之
秋深み庭に腰掛けバリカンで丸刈りすれば頭に落ち葉
岐阜 唐井 昇
べに紅葉ひとひらの散る音聞けば世の常ならぬ理を知る
埼玉 塚﨑孝蔵
新紙幣を時折見かけ嬉しさにこれはお店で使えるのかな
山口 沖村宏明
私とのデートの時には言わないで何かいいことないかなぁって
富山 岡本三由紀
時間を追い日を追いかけ暮れゆけり急き立てるもの見えないままに
京都 吉村仁志
寒過ぎて冬は来たりぬ昨日まで頑張ってくれてありがとう秋
滋賀 大林 等
肩すくめ夕景に見入る里の道山の明かりがいとど恋しき
宮崎 小野加子
猛暑去り十月半ばの運動会秋空に響く子らの声援
埼玉 岸 治巳
畦道に小さい秋が目にとまる犬蓼、嫁菜、地縛り、野路菊
奈良 中村宗一
梨や柿米まで不作で恨み節猛暑とカメムシ農家を直撃
京都 観山哲州
給食に五目ラーメンが出ると言う登校の孫は声弾ませて
東京 蚫谷定幸
夜に爪を切ってはならぬとふ言ひ伝へ健気に守る吾子の姿に
評
三句目「ならぬと」を「ならぬとふ」に直す。
俳壇
愛知 山崎圭子
薫浴よ金木犀のベンチにて
評
「薫浴」は香りを浴びること、一種の造語だが、金木犀のそばのベンチがまるで一等席のよう。
山梨 山下ひろ子
ほのぼのと生きて十個の柿を干す
評
最初の「ほのぼのと」がいい感じ。干し柿もほのぼのとした感じに仕上がったのだろう。もしかしたら大ぶりな甲州百目の干し柿かも。
神奈川 上田彩子
木道を踏み外す君草紅葉
評
この「君」はあやまって、つまり、よろよろとして踏み外したのか。あるいは、意図的にそれたのかも。ボクは後者と見たい。ほんとうは木道をそれてはいけないのだが、わざと踏み外して草紅葉をたっぷりと鑑賞したのだ。こんな人物、好きだなあ。
滋賀 小早川悦子
冬晴れや伯父の絵の額新たにす
京都 岡田直子
七五三はしゃげよはしゃげ我が子らよ
京都 神居義之
味噌汁はまろやか今朝の今年米
大阪 光平朝乃
したきことの締切り決めて小春の日
東京 山崎洋子
落葉掃き声かけ合ひて隣組
石川 山畑洋二
加賀富士と呼ばれ秀麗冬に入る
長崎 吉田耕一
教会と寺の鐘聞く日向ぼこ
大阪 津川トシノ
トンネルを出れば入り江に冬の虹
大阪 原田勝広
じっちゃんは自然薯掘りの手足なり
長野 出澤悦子
盛り上る漫画談議や返り花
大阪 西岡正春
流星の真っすぐ落ちし愛宕山
長野 原 好弘
戸隠に人並びたり走りそば
兵庫 堀毛美代子
手仕事を言い訳にして日向ぼこ
東京 松井なつめ
ふるさとのいぶりがっこや初時雨
埼玉 東 咲江
冬蝶や生とは何か解けぬまま
評
原句は「老蝶や」だったが、老蝶という語はないので、季語「冬蝶」「凍蝶」などを使いたい。