令和7年3月
歌壇
岩手 小野寺満
初マラソン「パパがんばれ!」の応援に力を貰い笑顔のゴール
大阪 林 孝夫
娘から畑の野菜ありがとう鍋で食べたよキャベツが甘い
京都 観山ひろくに
親戚のダックスフントはよく吠える吾の迷いを見透かすごとく
大分 小林 繁
アケビ熟れ落ちんばかりの通学路令和の子らは仰ぎ見もせず
福井 杉谷小枝子
別れゆく友が残せしサボテンが見事に開き初春を寿ぐ
埼玉 山本 明
夢に見し人はさやかに見えねどもあな懐かしき心地にて覚む
宮城 曽根 務
目指したる親父の歳超え喜寿も超え二年後は傘寿足腰に問う
青森 中田瑞穂
若くはない私が今朝も映りいる口角上げて瞬き三回
宮崎 小野加子
蝋燭の明かりもらいて観音堂寒中の朝いまだ暗きに
京都 根来美知代
新しき机届きて真っ先に立てて納める怪獣フィギュア
長崎 片岡忠彦
山桜の蕾ふくらみ里人の今は忙しく田起しさなか
大阪 津川トシノ
ひと山をくぐればそこは青い海弾ける波の冬のたわむれ
大阪 津村仁美
厨房ではあったか食事を用意して職員さめぬように急ぎ配る
京都 赤尾智子
年の瀬に嫁ぐ娘の幸願い先祖の墓に寒菊供える
奈良 川本惠子
六十年過ぎても母校はなつかしく麦生ひらけて紅梅の咲く
評
結句「六十年過ぎても」を初句に移動。
俳壇
大阪 津川トシノ
水ぬるむ包丁をとぐ鼻眼鏡
評
「水ぬるむ」が春の季語です。鼻眼鏡に笑ってしまったが、その笑いが春をさらに引き寄せる感じ。包丁、きっとうまく研げたでしょうね。
愛知 山崎圭子
ラガーらのスクラムの中つとボール
評
「つとボール」がいいです。テレビでラグビーの試合を見ていると、スクラムの中からたしかに「つと」ボールが出ます。
山梨 山下ひろ子
人類の移住の話冬銀河
評
今から五〇億年後、太陽は寿命を迎えると言います。もしそのころまで人類が生きていたら、さて、どこへ移住するのでしょうか。
福岡 伊熊悦子
盛り塩の尖り際立つ淑気かな
福岡 伊熊朋則
願掛けの諸手にしかと初明り
東京 中鉢和弘
冬籠りたんたんと今やり過ごす
大阪 原田峰子
冬の日やハルカスのぞむロータリー
和歌山 福井浄堂
境内の白猫走る年の暮
兵庫 堀毛美代子
老いもまた笑ひの種や冬日向
福岡 古野ふじの
生かさるるまだまだ生きる老いの春
富山 山澤美栄子
冬うらら立山お供にショッピング
三重 森 陽子
里帰り先ずのもてなし炬燵なり
滋賀 山本祥三
風花や妻は堅固でいて欲しく
米国 生地公男
塀の上朝日にぬくぬく冬の猫
京都 岡田直子
腓返り生きてる証みぞれ降る
青森 中田瑞穂
八方の見ゆる吊り橋梅日和
京都 根来美知代
春炬燵昭和の写真並べ立て
大阪 光平朝乃
少し着飾り日帰りの旅はじめ
京都 観山哲州
老僧の読経と似たる虎落笛(もがりぶえ)
東京 山崎洋子
枕辺に歳時記二冊寝正月
石川 山畑洋二
霊峰を描くカンバス冬晴間
青森 吉田 敦
特老の祖母煤払せむと言ふ
静岡 太田輝彦
腰掛けし縁先ぬくし春隣
評
原句は「濡れ縁」でした。「縁先」のほうが季語「春隣」と響き合う気がします。