令和7年4月

投稿日時

歌壇
堀部知子 選 投歌総数127首

福岡 小林文子

難しき名の病得ても気兼ねなく友と話せる気がして嬉し

何よりの友人、有難いかぎり。病名はわからずとも、友情はなによりの妙薬です。お大事に。

宮城 西川一近

降りしきる雪の夜明けに除雪機を動かす人ありいつ起きたるや

早朝より除雪する人へのやさしい思いが伝わる。作者も朝早くから起きていたのでしょう。

兵庫 堀毛美代子

おぼつかなき歩みなるらし若きらは両手振りつつ追い抜いてゆく

淡々と詠みながらも、結句によって作者の気持がありありと浮かびあがるようだ。四句目も良い。

滋賀 渡邉惠子

出会うたびにあとを頼むと言いおりし妹の一周忌の筵に連なる

兵庫 跡部悦子

雨の日は卓にさしたる笹百合の香りはしるく人の恋しき 

滋賀 奥田壽英

冬の月身近な人の別れきて心に残る君の笑顔が

大阪 安藤知明

ローカル線のボックスシートに座りたり地元訛りで話しかけられる

埼玉 石村和子

蓮植え替え桜開花の時を待つ用土も備え新芽を案ず

滋賀 今村圭吾

世の中は朝霜白粉の薄化粧春しのび待つ寒の草花

神奈川 上田彩子

今在れば娘は今年年女二十五年の不在の時間

神奈川 小笠原嗣朗

叱りたきをじっと抑えておられしか今はっきりと亡き母の声

青森 中田瑞穂

ポータブル電源簡易トイレまで買っても買っても不安は消えず

奈良 中村宗一

長姉は九十八われの間に二人いて病知らずで惚けてはおらぬ 

京都 観山哲州

正座できず自転車乗れず生きているこれが老いなり喜寿を迎えて 

東京 蚫谷定幸

風強くチラシを配る議員さん「行ってらっしゃい」とわれに言いたり

元歌の初句「風強し」を「風強く」にする。

俳壇
坪内稔典 選 投句総数240句

福岡 伊熊悦子

掃除ロボット走る立春の美術館

掃除ロボットに「やあ」と手を振りたくなる。「走る」という動詞が効果的、春になった気分をよく伝える。

富山 山澤美栄子

青空に雪山どんと動いたよな

雪山が動いたという見方がいいなあ。山が新鮮に見える。最後の「な」を取って「動いたよ」と断定すると風景がさらに鮮明になる。

東京 山崎洋子

首筋に伸ばす乳液春浅し

首筋に生命力の蘇る感じ。乳液と季語「春浅し」の取り合わせがぴったり決まった。

福岡 伊熊朋則

冬落暉幣は真白や楠大樹

大分 小俣千代美

本堂のご詠歌揃ふ春隣

兵庫 小野山多津子

笑顔の手胸に冷たき聴診器

東京 小室清恵

写真撮る新婦の衿に春の雪

大阪 津川トシノ

AED暇で何より春隣

大阪 西岡正春

ガザの子の眼の透き通る寒の内

静岡 伊藤俊雄

文鳥の鳥語聞き分く春炬燵

静岡 太田輝彦

農作業休む帽子や秋茜

京都 岡田直子

比叡スミレ両手にあまる幸せが

岩手 小野寺満

春隣刺繡に母の匂ひかな

京都 神居義之

テレビでは謝罪会見春炬燵

秋田 高橋さや薫

裸木は炎の形向かい風

青森 中田瑞穂

地球儀の螺子の弛みか猫の恋

奈良 中村宗一

のんびりと堆肥つくりや初仕事

京都 根来美知代

春風と子犬を入れてハイチーズ

大阪 光平朝乃

梅咲くや日曜ランナー多き道

京都 観山哲州

部活生駆け上がりゆく椿坂

三重 森 陽子

顎引きし挨拶交わす寒波の日

大阪 山崎有夏

冴え返る模試の帰りのバスの窓

石川 山畑洋二

大玻璃の視野の限りに日脚伸ぶ

奈良 上田荷香

梅が香や夫の遺愛の椅子に座し

京都 糟谷藍子

料峭の京都盆地は騒ぎをる

埼玉 東 咲江

深鍋に残るシチューや寒厨

「シチュー残るや」だったが、語順を変えてシチューをクローズアップした。この方が残ったシチューがうまそうに見える。