令和3年8月
浄土歌壇
京都 根来美知代
丁寧に和菓子を包む店員の制服の白き衿の清しも
評
京菓子でしょうか。作者の着眼は上句を受けて、自ずと清々しい気分になるのはその白き衿ゆえか。
栃木 小峰新平
田植する隣は麦を刈り始めそのまた隣は代掻きをする
評
作者の視線の変化に読者は想像をふくらませ、その景をつぎつぎに身内に取り込んでいく。
大阪 安藤知明
孫よりのメールはいつもコロナには負けないでねと結ばれており
評
この一首は結句の良さではないでしょうか。ある年齢に達したお孫さんとの交信がほほえましい。
兵庫 中西一朗
積もりたる枯葉を掃かんと早朝の墓苑に行けば箒の跡あり
群馬 新井日出子
コロナにて見舞う施設の面会で友の笑顔に逢える日を待つ
滋賀 中村ちゑ
家を守る子と語りつつ五歳にて逝きし長男を今に偲ぶも
福岡 上野 明
菜園にジャガ芋育ち収穫は三又鍬で茎枯れを待つ
大阪 津川トシノ
骨育にカカト落しが良いと聞く廊下の床がみしみしと鳴る
和歌山 原 鉄也
紀の国は山国なれば庭に来る尾長、山雀、目白に鶯
青森 中田瑞穂
車中にて問診を受け薬を待つケンタッキーチキンを買うようにして
大阪 林 孝夫
よーいどんのワクチン予約運を天に任すが電話もネットも駄目だ
奈良 中村宗一
救急車だけでは命を救えないドクターヘリの飛ばぬ日はなく
アメリカ 生地公男
鎌倉へやっと電話の繋がればワクチン終えしと疲れたる声
千葉 林 元子
肉ジャガを丼いっぱい盛りつけてコロナ禍のなかささやかな幸
石川 五十嵐一雄
半月の形に割れし皿のこと言いそびれつつ時の経にけり
評
下句は「隠してしましの休息時間」であった。
浄土俳壇
佐賀 織田尚子
梅雨となるおうち時間の裁縫箱
評
コロナは新しい言葉をもたらした。三密、テレワーク、オンライン飲み会など。「おうち時間」もその一つ。コロナ禍をささやかな福に転じた句。
大分 吉田伸子
五月雨やコロナの接種五秒程
評
コロナワクチンの接種は、その予約からして社会的な騒動になったが、意外にも接種は「五秒程」で済んだ。その気の抜けた感じのおかしさ、そして安心感! それをうまく詠んだ。
青森 中田瑞穂
ふるさとにマグロ幟よ青嵐
評
作者の故郷はマグロで有名な大間あたりなのだろうか。鯉幟ならぬマグロ幟が愉快だ。
京都 根来美知代
風薫る誤字そのままの拉麺屋
群馬 木村住子
蜜豆を亡母と分け合ふ午後三時
大阪 森 敏記
大鉢にそらまめの湯気大家族
京都 孝橋正子
母逝きて一人ぼっちの牡丹園
和歌山 福井浄堂
念佛の風に交じりて里若葉
滋賀 三宅俊子
青梅雨やほのかに匂ふ女子生徒
長崎 平田照子
夏つばめ帆船追いて宙返り
奈良 畷 崇子
たわいなき長電話する梅雨の入り
大阪 津川トシノ
傘をさし日影をつれて歩く午後
熊本 土佐千洋
離島への赴任の決り蚊帳用意
大阪 西岡正春
岩手山一本道に青田風
埼玉 須原慎子
「御自由に」との花菖蒲少しだけ
神奈川 藤岡一彌
花蜜柑見下ろし電車傾ぎゆく
山梨 山下ひろ子
蛍きて二人で生きて焼き団子
鳥取 徳永耕一
新緑は動き出す色旅心
神奈川 中村道子
青嵐誰かのボール転げゆく
群馬 飯塚 勝
雨の中重たく居ます薔薇を剪る
群馬 長 京子
ライン・ライン近況報せと柿若葉
神奈川 上田彩子
夏来ると軽い女となりて旅
大阪 岡崎 勲
観覧車先に乗り込む夏の蝶
アメリカ 生地公男
解放の口髭夏の風の悦
評
「風に」を「風の」とし風を主人公にした。