令和3年9月

投稿日時

浄土歌壇
堀部知子 選
投歌総数143首

奈良 中村宗一

葉脈の中から花が咲くという飛鳥の寺で菩提樹を見る

作者は初めて菩提樹を見たのであろうか。釈尊がこの樹下に座して悟りを開いたと伝えられ、神聖視されている。上句からその感動が直に伝わる。

京都 木瀬隆子

紫陽花をこよなく愛でし住職の一周忌の秋に一毬の花が

結句に作者の感動が集約されていて、しかも一周忌の秋に。素直に詠われていることが何よりだ。

埼玉 山本 明

夢を追う二軍選手の球場は土手を下って夏草の中

初句にやや表現の甘さがあるようにも思えるが、その球場の場所が結句の如くでなかなかきびしい。

岡山 長谷川多佳子

接種終え自転車をこぎ跨線橋に雨後の里山霧立ち上る

大阪 林 孝夫

帰省出来ぬ娘に送る野菜の箱畑の元気をあなたに届ける

京都 根来美知代

転た寝の肩を確かに叩かれて座り直すもやはり一人居

東京 蚫谷定幸

藪入りの閻魔さん詣でひととせの垢を落として線香供ふ

埼玉 岸 治已

六月のカレンダーには丸二つワクチン接種一回目二回目

東京 代田ユキ

いとまある夕暮どきの一人居は何かが足りない通り雨降る

大分 小林 繁

整然と苗を植え行く田植機を運転するは若き後継ぎ

三重 服部浩子

元医師のひまわり畑の五千本新種の黄色が地方紙を飾る

青森 井戸房枝

彼岸の寺久しく見ない友と会ひ共にひとり身話は尽きず

滋賀 三宅俊子

看護師におうむ返しに聞きし姉アイパットにて逢うも久しき

岡山 谷川香代子

エレベーターに乗り合わせたる身障者の少女とタッチすコロナ忘れて

元歌はかなり字余りであった。説明にならないように、切り口で捉えるのはなかなか難しい。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数251句

長崎 平田照子

高速船ペンキぬりかえ梅雨晴間

ペンキを塗り替えた高速船が梅雨の晴れ間を快走しています。その風景、明るくて快く、その気分が読者によく伝わります。

青森 中田瑞穂

兄弟は若年寄りよ梅雨明ける

「若年寄りよ」から驚きと笑いを感じます。兄弟の若年寄的風格にふと気づいたのですね。「灯台が島に根を張る海霧海峡」も中田さんの作。

山梨 山下ひろ子

右に姉左に妹夏の昼

三姉妹でしょうか。三姉妹が元気で揃って、暑い夏の昼が少し涼しくなった感じ。

京都 孝橋正子

庭の枇杷捥ぎ給食に差し入れし

滋賀 三宅俊子

三伏の生み立て玉子かけ御飯

青森 井戸房枝

水打って孫の決めたる人を待つ

埼玉 三好あきを

子や孫の指図のままぞ夏の雲

茨城 齊藤 弘

もぎたての胡瓜揉み添え朝の膳

和歌山 福井浄堂

夏帽を斜めに被る老教師

長崎 松瀬マツ子

庭の隅睡蓮の咲く古火鉢

滋賀 山本祥三

虹の根は妻の実家のあたりから

福岡 古賀幸子

万緑にいて万緑を展望す

埼玉 須原慎子

梅雨晴間背伸びしながらシーツ干す

佐賀 織田尚子

あとどんな日が待つのかな百合の花

秋田 鈴木修一

朝風や花火の街の花ざくろ

大阪 光平朝乃

木苺を摘み摘み歩く山の道

大阪 林 孝夫

私済み妻の予約は七夕に

大阪 岡崎 勲

道の駅婆の顔ある夏野菜

神奈川 上田彩子

大夕焼赤城榛名もその中に

鳥取 徳永耕一

野仏の退屈な掌に梅雨の蝶

岩手 佐々木敦子

風鈴の舌に雨ニモマケズの詩

京都 根来美知代

声高の早朝ラジオ初茄子

大阪 大内純子

素麺を夫と作るやてんやわんや

奈良 畷 崇子

現場には男子三人三尺寝

「現場隅」を「現場には」とした。こうすることで、なんの現場だろうと読者に期待感を抱かせる。三尺寝は今ではやや古い季語、大工などが現場で昼寝をすることを言う。