令和3年10月

投稿日時

浄土歌壇
●●●● 選
投歌総数●●●首

秋田 鈴木修一

ざっと来てすぐ止む雨にあま蛙みごと一節合わせて鳴きぬ

この一首のように詠まれてしまうと「たしかに」と思いあたる人もあろうかと、共感を呼ぶ一首。

青森 中田瑞穂

お嬢さん早く見つけて下さいね温泉の栗の花が満開

多作者のお一人でもある。栗の花が作者に呼びかけているのですね。「お嬢さん」が効果的。

兵庫 堀毛美代子

軒先にハイビスカスの花の燃ゆ通り過ぎつつ覗きたき思いに

この一首のような気分になったことあります、あります。下句に作者の思いと仕草が見えるようだ。

埼玉 塚﨑孝蔵

網戸に来て鳴く蝉はなぜ人恋しステイホームの我を見ている

大阪 林 孝夫

東京の娘に送る野菜採りに夜明けと共に畑に出向く

滋賀 北川徳子

老い二人白川郷に歩を休め五平餅食むゆっくりと食む

京都 根来美知代

楊貴妃の仔細数行謡本のすぐに左へ傾ぐ見台

埼玉 山本 明

悲しくも掃き溜め菊と呼ばれしも他に花咲く道の無ければ

群馬 新井日出子

中国と友好を機に吾も参加着物姿に詩吟を披露する

石川 五十嵐一雄

はるかなる呼び声に似て風うたうゆったり点てる抹茶一服

宮崎 小野加子

信仰の篤き婦人の背を照らし路傍の佛に朝日の届く

栃木 小峰新平

往年のイージーライダー今は止め娘の旧い原チャリに乗る

東京 田中恭子

木犀に這ひ上りたる朝顔に暑さも退きぬ八朔の朝

和歌山 原 鉄也

老いぼれは籠りて源氏に親しめり灯火秘かに少女のように

神奈川 相田和子

青田吹く風に乗りくる故郷の田圃見廻る亡き父の姿

元歌の結句は「父の顕ちくる」であった。

浄土俳壇
坪内稔典 選
投句総数214句

東京 椎野恵子

かけっこの形の夫三尺寝

季語「三尺寝」はちょっとした昼寝、大工さんなどの昼寝を言った古い季語だ。椎野さん、夫にその昔の三尺寝を感じ、ちょっと笑っている。

青森 中田瑞穂

連れていく影も秋めく一万歩

長くなっているのでしょうね、影。「連れていく」がいいなあ。散歩が楽しくなりそう。

和歌山 福井浄堂

一息で吸い込む僧の心太

自画像だろうか。勢いがあって秋の暑さやコロナの憂鬱がふっとびそう。

熊本 土佐千洋

少年は変声期なり夏蜜柑

埼玉 山本 明

すれ違うランナー夏の香を残し

神奈川 上田彩子

忌々しこの蚕豆は外れだわ

大阪 渡邊勉治郎

冠木門越して旧家の百日紅

群馬 木村住子

下敷もペンも字引も残暑なり

鳥取 徳永耕一

掛茶屋の椅子は切り株夏つばめ

長崎 松瀬マツ子

髪カット西瓜オクラに夏帽子

愛媛 千葉城圓

散歩道朝の芙蓉の白さかな

岡山 矢川紀代子

墓洗ふ父は享年三十二

滋賀 野口直子

縁側のクレヨン絵の具蝉時雨

岩手 佐々木敦子

通されし和室に蚊帳の吊手跡

栃木 伊藤和子

夕端居猫の頭を撫で回し

京都 佐野次郎

僧坊の陰に惹かれて角曲がる

群馬 長 京子

おろしたての鎌夏草をひと薙ぎに

神奈川 中村道子

花茣蓙やテレビをつけて眠る夫

奈良 中村宗一

孫からのメールでアイス買い揃え

大阪 大内純子

逃げ水を子供も猫も渡りけり

東京 津田 隆

山陽路一歩一歩に蝉しぐれ

大阪 林 孝夫

コロナ禍で何もせぬまま文月去る

大阪 光平朝乃

さりげなく打ち明け話日雷

東京 山崎洋子

蜩や村に一つの立ち寄り湯

大阪 岡崎 勲

時々は脱いで風待つ夏帽子

福岡 古賀幸子

復興の町に上がりし盆の月

山梨 山下ひろ子

マスクとる青紫蘇畑へ続く道

原句は「青紫蘇畑の香の中を」だった。青紫蘇畑だけで香りは読者に十分に伝わる。