令和4年9月
浄土歌壇
福岡 古賀悦子
梅三キロ辣韭(らっきょう)六キロ漬け終りわれは安堵す手仕事楽し
評
上句でびっくり更に結句でびっくり。経験の無い者にはこの力業にはただただ頭が下がるばかり。
大阪 林 孝夫
苦労して何度もやり直し海外の孫への荷物やっと送り出す
評
お孫さんへの思いはこの一首で十分、結句にすべて終決されている。さてその中身に興味津々。
兵庫 吉積綾子
亡き夫の肩の丸みがそのままの背広を吊す梅雨の晴れ間に
評
上句の「肩の丸み」に作者の思いが込められている。この一首は結句が広がりをもたらす。
滋賀 北川徳子
晴れ晴れと娘に綴りおく吾と夫の生きた証しのエンディングノート
愛知 吉田喜良
六階の病室からも見えるんだひときわ高くヒマラヤ杉は
大分 小林 繁
秘境なる阿蘇の谷あいゴトゴトと走る屋根なしトロッコ列車
福井 杉谷小枝子
母の日に贈られし百合今年また見事に咲きて香りを放つ
群馬 新井日出子
二十年手帳と共に持ち歩く逝きたる夫の笑顔の写真
福岡 上野 明
夏野菜一番採りを仏前に御供えしては願い事する
佐賀 早田なつ代
雨上りの谷間に咲ける山百合は草の茂みを照らすがに見ゆ
岡山 谷川香代子
後部座席で御詠歌聴きし孫は今期日前投票に父を乗せゆく
宮城 神尾三重子
雨上りの香りに誘われクチナシに仔犬クンクン私もくんくん
兵庫 斎藤一義
イチミリの虫に翅あり手足あり五分の魂備わりしかや
石川 五十嵐一雄
掛け声をかけ立ちあがる自らの老いの自覚や笑うほかなし
神奈川 内田陽子
夫逝きて苦しきことも多けれど身の丈に合う幸せつかむ
評
元歌の二句三句は「苦難の道を歩めども」。
浄土俳壇
佐賀 織田尚子
見るからに冷たそうだね蜥蜴君
評
「ね」と「君」がいいなあ。蜥蜴への親しみがよく出ている。思わず触ってしまう感じでしょうか。
東京 椎野恵子
家に茄子はあるがヒーローはいない
評
笑ってしまった。笑った後で、茄子をうまそうに感じました。焼き茄子でいっぱいやりたい!
長崎 平田照子
アンジェラス響く岬やねむの花
評
きれいな風景。天草あたりでしょうか。
群馬 長田靖代
蛇のゐし草もほどほど伸びてをり
福岡 古野ふじの
雨雲の帯引く狭間梅雨夕焼
滋賀 野口直子
夏のれん英字新聞待合室
滋賀 三宅俊子
大人びし口をきく子や栗の花
京都 孝橋正子
一発に鼻先の蚊を叩きけり
大阪 津川トシノ
丸ポストブーゲンビリアの衣裳着て
和歌山 福井浄堂
ががんぼのゆらり現れ日暮れかな
青森 井戸房枝
靴持って上るお寺や夏の昼
愛媛 千葉城圓
冷麦の氷残りて音涼し
滋賀 山本祥三
遠雷よ家へ着くまで近づくな
三重 森 陽子
入道雲スプーン一匙食べてみた
埼玉 須原慎子
遠雷や遠雷のまま過ぐるかな
長崎 松瀬マツ子
両の手で西瓜の太さ自慢する
大阪 誉田洋子
横に来て孫も写経の夏座敷
青森 中田瑞穂
散髪も暮らしの一つ夏座敷
東京 蚫谷定幸
立葵われの背越えてなほ空へ
秋田 保泉良隆
日に一歩かさぬる妻の試歩涼し
東京 山崎洋子
無住寺の上り框の円座かな
神奈川 上田彩子
街道歩き茅の輪幾つもくぐりけり
静岡 太田輝彦
病窓に手を振る妻の白日傘
山口 沖村去水
夏してる水平線に問い問われ
群馬 木村住子
朝の庭午後の庭にも青梅よ
評
原句は「午後の庭午前の庭の梅の蝶」だったが、青梅のシンプルな句に仕立て、午前と午後の青梅の微妙な違いを表現した。